二〇二二年霜月十日

青空はどこへ

雲一つない空に、今日も空飛ぶ棺桶が旅立つ。
どうして奴らはべらぼうにぼくたちを狙うのか、恐らくウン百年考えても分からないだろう。
だからぼくたちは木のホセなんかに白いハンケチだのを括り付けて敵機目がけてひらひらさせるんだよ。

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meioekaki at 00:04|PermalinkComments(0)

二〇二二年葉月四日

お腹が空いた、百人の子供が欲しい。

私は地面というものであります。
どうやら私自身が思っている「手」の部分は、人間にはとある田舎の山に見えるらしいのです。
私には人間なんてただの粉程度にしか見えないので知ったこっちゃありませんがね。

前もって言っておくけど、これは作者の頭の中だけで見えてるものだから特に意味はないよ。考えるだけ無駄です。ってことでブラウザバックして早く帰ってください。私はあなたの貴重な時間を浪費するためだけにこれを書いてるので、ガチで暇すぎるって人以外は本当に時間がもったいないので見に来ないでください。けれど、結局内容が面白かったと言ってもらえたら、忙しい人であろうと嬉しいです。
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これは今よりすこーし前の、ちょうどテレビができたくらいのときのお話。
なんでしたっけねえ、どこかの田舎町には、太郎くん(仮名)って子がいた。
田舎の子とは思えないほど良いところの息子で、古ぼけた町の中ではひときわ目立っていた。
けれど、その裕福さ故に生意気で、問題児としても知られていた。
9歳になっても未だに虫を潰して遊ぶのが趣味だった。
しかしそんな太郎くんは、遊んでくると言ったきり、行方が分からなくなった。
家族が心配しているのも知らずに、太郎くんは行ってはいけないときつく教えられていた山に入っていってしまった。
あ、xxさん、語り手交代しますね。

おっと、ようやく百人目の子供がやってきましたね。
それにしても、ガキンチョひとりでこんな山に行こうなんて、よく考えるものだね。
地面は、実体のない手で子供を招いた。
太郎くんはもうほぼ迷子になりかけていて、いくら自分の判断で来たといえど、泣き出す寸前だった。
ついにはそこに座り込んで目に涙を溜めはじめた。
「おかあさーん、おとうさーん…」
そう呼びかけたとき、地面は中から土でできた手を出して、
「ちょっとちょっと、そこのぼんぼん。
そんな甘ったるい声で泣いていたら、可愛らしい顔が濡れてしまうでしょう。
暇だからすこーしだけ付き合ってくれないか。終わったらお家に返してあげるからさ。」
太郎くんは怖かったが、とにかく帰れるならなんでもいいと思ったのか、
「…わかった。」と頷いてしまったよ。
地面は心のなかでほくそ笑んだ。
一番恐ろしいのは人だろうか、いいや、自然だろうか?
考える暇はありません。
地面はその手で見知らぬ子供もとい太郎くんを抱きかかえて、普段はない場所へ連れて行った。
「楽しくなる薬をあげよう!なんかあっても、だれにも言うんじゃないよ。」と、その手は強制的に淡い黄色の固形物を太郎くんの口に押し込んだ。
無理やり入れられたのが苦しくって、反射的に飲み込んだ。
喉に張り付いて気持ち悪い。太郎くんは何度も咳をした。そう、顔が真っ赤になって、全身から汗が吹き出すほどに。
「苦しいかい?もうじき楽になるよ、がんばれ。」地面はそう言った。
喉がただれて血がにじんできたところでやっとお腹に入った。
なんだか全てが楽しくなったような気がした。
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次に地面は聞いた。
「何がしてほしい?なんだって用意するし、いくらでも遊んでやるよ」
太郎くんは「蟻が沢山ほしい。」と言った。
「なるほどね!わかったよ、待ってて。」と地面が言うと、喋る手の中から黒光りするありんこがボトボト落ちてきた。
「わあ、すごい!」太郎くんは、すっかり感心したようだ。
そしてその黒い蟻たちをすくい上げると、満面の笑みを浮かべながら叩き潰した。それから手と子供は、走り回ったり笑い合ったりして時間を過ごした。
そして、疲れ切った太郎くんは草の上に転がって、そのまま寝てしまった。
そして地面から月が顔を出す。
日はおつむだけを見せている。
月は手を生やして、そっと太郎くんを抱き上げて、何度か軽く叩いた。
太郎くんが薄く目を開けたとき、月は思い切り彼を殴った。
「痛い!痛い!!」と泣き叫んだ。
しかし太郎くんはなんとかして月の手から出て、死ぬ気で走った。
それでも、駄目だった。
月はすぐに「あれ、逃げたらだめだよ!もう少しで貴方は私の、久しぶりのご馳走になるんだから!」と捕まえて
「おしおきしなきゃ。
さあ、好きなだけ泣いて。ああぁ、これこそあのときの笑ってるあなたと対立してて、もうなんか、性的に興奮する!」と太郎くんの左手首を切り落として丸呑みした。
「あーっ!取らないでよ!」
月は「ああ、美味しいね!これだけもらえたら満足だから、逃してやるよ!元気でね!でも、どうせならここでもがき苦しむのを見るために、右足を引きちぎっておくべきだったよ!アハハ、このままあのありんこに仕返しされて、残った体も噛み千切ってもらえたらいいね!遊んでくれてありがとう!」と言うと、太郎くんをその場所から強制的に追い出した。
左手がキモチイ…ああ、もっとやってくれ。ほら、そんな優しい声を出さないで。もうこれ以上騙されない。
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太郎くんはボロボロの体で這いずり回ったが結局家に帰れず、最期まで寂しい気持ちのまま、山の出口を目前にしたところで息絶えた。残る感情、悔しがり。
月と地面の笑い声が響いた。
けれどこの山は、なんだろうね、家に帰ってきたみたいで落ち着くよ!ああ、懐かしい。誰もが喜んでいるみたい!

当然、親たちは必死で探したよ。
だけども、どこを探したって見つからない。
町の人は、真面目に探す人はあまりいなかった。だって、悪ガキひとりいなくなったところでなにも困らないんだから!
しかしある日、立入禁止だったはずの山の入口に子供の足跡を見つけた人がいた。
そこで初めて、あの子は見つかった。
どういうわけか、死んだ直後の状態で。
手首の血もまだ乾いていない。
どういうことだろうね?
ただ、見つけた人が持ち上げたら下から大量の蟻が出てきた。それに驚いたその人は、親を直接呼びに行って、わざわざ運ばせた。
でも、今はどこにあるかわからない。
だって、もしかしたらまだ生きてたかもしれないじゃん。

町中の、家の明かりが消えちゃった!
今日も平和です。

後味悪いねぇこの話。
うえぇ、気持ち悪いっ!
自分でもこれはきちがいだとしか思えん。
わし、頭おかしいんちゃうか。
もうなんか、何から何まで狂ってる。見てて不安になる世界観です。




meioekaki at 02:38|PermalinkComments(0)

二〇二二年文月十二日

お礼の話

今日おつかいに行って、精算機の使い方がわからなくて困ってたら隣のレジ使ってた人が助けてくれました。
あのときお礼言えばよかったのに、言葉が出ない自分が恥ずかしいね。

2022/07/12の日記

meioekaki at 18:04|PermalinkComments(0)

二〇二二年水無月十一日

クリアおめでとう!!

はい、こんにちは。まずこれをやろう。ggksmkk on Scratch続きを読む

meioekaki at 14:52|PermalinkComments(0)

二〇二二年水無月四日

思い出

あるはずもない思い出。誰の記憶なんだろうね?

夜中の十二時家を出て、小学校に行ったとさ。
そこで友達と合流したよ。
妹も連れて行った。人部屋ずつ回った。
理科室の前を通りかかった。鍵があったので入ってみた。
人体模型がカラカラ音を立てて動いて、笑いながら首を回した。
学校が開校したときからある木箱の中には、赤ん坊の人形が入っていて、こちらを睨みつけた。戸棚の中のお皿が勝手に落ちて、ストップウォッチは勝手に動いた。
アルコールランプとマッチに火がついたので、別の部屋に行った。音楽室に行くと、鍵が閉まっていた。小窓から見える肖像画の顔が変わった。誰もいないはずなのに、ピアノの音がガツンガツン聞こえた。
近くにある踏切の音は、カンカンカンカンといつものように不気味に笑った。
聞いたことのない音楽が再生される。「こんなレコード、音楽室にはなかったはずだよ。」と友達が言ったので調理所に逃げた。
調理所の鍋の奥底が見えなくて、怖くなったので教室の前まで走ってきた。
教室は明るかった。先生の怒る声が聞こえてきた。だれもいないところに向かって…。
一番怖かった。門が閉まっていたので裏口の低い柵をよじ登って人気のない道を通った。
夜明けで薄暗い中、老夫婦が歩いていた。ぶつかりそうになったが、なぜかその後振り返っても誰もいなかった。そのまま帰ったが、次の日から妹は便所に籠もって出てこなくなった。

これ、いつの話?

さてさて今回の画集です。世界一しょぼい美術館。よってらっしゃいみてらっしゃい!!
田舎っ子 絵
田舎っ子
今池は都会ですけどね…。詩は別売りだよ!!

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とっちゃん生きて帰ってね
あの時笑ったのが不思議でならない。今度書き直してみようと思う。
画用紙が絶滅危惧種だからデジタルかなぁ…
紙に直接描くからこそいいんだろうけどね。

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笑う子供
懐かしいポスターだなぁ…。いやぁほんとうに懐かしい。
懐かし病になっちゃうね。明日、部屋の掃除をしようかなー。

昭和の子 絵
昭和の子
「ごめんね、お兄ちゃん。泣かないで。」「生肉、美味いだろ?」
怖いかもしれないけどお腹空いたらこうするしかないと思った。だって腹減ると気持ち悪くなるじゃないか。
流れ星みたいに 絵
流れ星みたいに
逃げてたらこけて歯が折れた。こうなったら我慢できない。
なんでよりにもよって自分は生きながらえてるんだろうか…。
一人で生きてちゃあ、命があっても生き地獄。

母ちゃんは見ている 絵
母ちゃんは見ている
帰れない帰れない…。もはや家がない。誰かと会えたのはもう何か月も過ぎた冬の寒い日だよ。ウジ虫はとっくに成虫になって逃げてったわ。
なんにせよぼくは親の顔すら覚えてないんだから。

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泣きながら夢を見た。
やっと帰れた…
そういえばこんな日常だったか。

姉ちゃんのハンバーグ 絵
姉ちゃんのハンバーグ
もう二十年くらい後の事。
お父さん、どこを探してもどこにもいない…。

やぶれたポッケ 絵
やぶれたポッケ
寂しいというより、気の毒。
もちろんつらいのは自分だけじゃない。

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小さくなった子
あ、…あっ、久しぶり!!そういえばブログの更新も二か月ぶり。

わけっこ 絵
わけっこ
正確な年代はわからないけど、意外と最近っぽい?かもしれない。
こいつ(自分)は自分の描いた絵に何を言ってるんだろう。


サブおえかき連投(時系列順っぽい並びではある)一応挿し絵も載せとくわー
落書き
紹介
支部
そんなことするなよ
取られちゃった
頭大丈夫?
いただきます。
もらってくれない
ああ 鬼畜な友達
k
熱くないの?
カバー
キャラメル
いたずらっ子
かまってかまって
こんな頃もあったなー
首を固定するよ
苦しそう
ありんこ観察
お相手はあの子 時間が左から流れたような気分だ。
タイムカプセル
どこかでまた会おうね。
古いアルバムセピア
挿し絵っぽい何か
跡
昭和15年の思い出
黒い雨が降る
かーわーいーいー
あ~あ。
駄菓子屋でばったり素材
何言ってるんだ
また会える日まで!
あんまり夜更かしするとビビりな私は怖くなっちゃうからね!(小学生かよ いやこんなこと言ったら失礼か)てかこれ描いたの夜。
ちょうどホラゲーやったばっかだし!





meioekaki at 08:00|PermalinkComments(0)

二〇二二年卯月十日

黒歴史その① 夜町シリーズ

本当は気持ち悪い小説もあるんですけど、文字数が多すぎて投稿できなかったので漫画で我慢してください。
人間
元ネタメモ書き
各キャラ立ち絵
レイヤー
ゲスト君設定
主人公の設定
主人公の姉の設定
ブラシレイヤー姉妹の設定
人間ゲスト兄弟の設定
第1話 夜町で迷子
一コマ
二コマ
三コマ
四コマ
五コマ
六コマ
第2話 かけようとしてみましたが

一コマ
二コマ
三コマ
四コマ
五コマ
六コマ
第3話 その時空では

表紙絵
一コマ目
二コマ目
三コマ目
四コマ目
五コマ目
六コマ目
七コマ目
おわり
第4話 雨の日①

表紙一枚目
二枚目
三枚目
四枚目
五枚目
六枚目
七枚目



meioekaki at 19:34|PermalinkComments(0)

二〇二二年卯月九日

今ある限りの絵

令和四年四月八日(金)から令和四年四月九日まで編集
去年の十一月から描いていた絵のシリーズと描こうとおもったきっかけなどを書きます。(一部加工あり 演出です)あと、最初の方はまだそこまで気にしてなくて仮名遣い間違えまくってますけどそこは気にしないでください。
気分を濁したらすみません。不快だとはっきり言ってくれればいいです。ただ、しょうもない理由でアンチコメントを書くのは荒れるのでやめてください。

第一弾 時代設定 昭和十四年の冬だと思う
田舎っ子 絵
田舎っ子 説明
画用紙に、一番最初に描いた絵です。
画用紙に描いた絵はのちに反戦シリーズになるのですが、この頃はただ昔っぽい絵を描く目的でやっていました。
昔からある市電といえば今池しか思い浮かばなかったのは今でも謎です。

第二弾 時代設定 昭和十六年
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第二弾は送り出しの絵です。ただただ古臭い絵を描くだけではもったいないという思いで反戦シリーズを始めました。
気持ち悪いと思う程度がちょうどいいくらいの気持ちで描きました。一生懸命気持ち悪い絵柄にしました。
最初はもっと物足りない感じのする絵でしたが、当時の担任に見せたところ、
「この状況でどんな気持ちだったか考えるといいかもしれないね。小さい子はどういうことか分かってなくて笑顔かもしれない。けど本当にそうになったら笑ってはいられないと思う。」との指摘を受け、女の子は何も知らなくて笑っているが男の子は微笑みながらも自分の父が帰ってこないかもしれないと思ってこっそり泣いている今の絵に直しました。
あとこれは関係ないですけど色が薄かったのでそこも直しました。

第三弾 時代設定 昭和十七年
昭和の子 絵
昭和の子 説明
こんなこと思ったのは私だけかもしれません。
妹(仮)のお腹が空いて、喉が渇いていてかわいそうだと思った兄(仮)が怪我したところの傷を自分の指で広げて血を飲ませてあげてるところです。
これは怖いと思うかもしれませんが怖いよりも悲しいと思って欲しいと作者は思います。
とくに、友達に「グロっwwキモすぎw」と笑い話にされたのは腹が立ちました。死にかけの小さい子供を見て爆笑してるようなもんです。それくらい酷いことです。笑っていられるほうがよっぽどキモいです。
良い子はこんなことを思っても口に出さないように。
本当にかわいそうですね。

第四弾 時代設定 昭和二十年八月六日
流れ星みたいに 絵
 流れ星みたいに 説明
ついに妹が被ばくしてしまいました。
ところが悲しむどころか諦めているようにも見えるのです。
そんな、人間の汚いところを描いたようなものだと思っています。雨を浴びただけですが結局餓死してしまうほど脆い命だと気づいていたのではないのですかね。

第五弾 時代設定 ギリギリ昭和二十年の冬
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泣きながら夢を見た。 説明
帰るのが冬になってしまいました。
久々にお母さんのあったかさに触れたあの日です。

第六弾 時代設定なし
母ちゃんは見ている 絵
母ちゃんは見ている 説明
これは 楽しかった頃に見た夢です

第七弾 時代設定 昭和四十四年だと思う
姉ちゃんのハンバーグ 絵
姉ちゃんのハンバーグ 説明
さて、少年は無事大人になり、息子と娘を授かりました。
しかし、放射能の影響により子供が六歳のときなくなってしまいました。
そんなときにお墓参りした、三年後の子供達の絵です。

第八弾 時代設定 昭和四十五年
やぶれたポッケ 絵
やぶれたポッケ 説明
どうやら再会したみたいですね。
ちょっとその過程を見てみましょう。

第九弾 時代設定 昭和四十五年
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ひとりぼっちでいるのは気の毒なものだから、紅い夕日を背に、声をかける。

第十弾 時代設定 昭和四十五年
わけっこ 絵
わけっこ 説明
久しぶりだね。

…と、こんな感じです。
「は?」と思った方もいる事でしょう。
暇があればこの小説も読んでみてください。誤字は笑ってくれたら嬉しいです。

【夕間暮れの子供】
紹介支部
零丁目 零番地 の「ここから始まった」
昭和六年十月二十一日、とある日本の町はずれにぎやあ〱といふ赤子の泣き声が響ひた。
新しい命ができたのだつた。元気の良ひ男子が、甲高ひ声を上げている。元年にはかの子の姉が生まれていた。
けれども何年か経つと、姉は病気を患つて、齢拾壱で亡い人になつてしまつた。

そのとき、ぼくは五つだつた。ねえちやんがだうなつただなんて、たうぜんぼくにはわかるはずがなかつた。
それでも、せうがくかうにはいつてからやうやくぼくはりかいした。あのときは、いつになつたらかへつてくるのかなとまつていたのだ。あれから二年かな。小さいときのことはよくおぼえていない。
さいきんはごはんもすくないし、いやなかんじがするなあ。ここに写ってるのは誰だって。 みぎにいるおんなのこがねえちゃん。ぼうしをかぶったおとこのこがぼくだよ。うしろにいるのがかあちゃん。   千九百三十八年
落書き

零丁目 一番地 の「これから會ふかもしれないんだよ。」
翌年昭和七年のこと。さきほどと近くの住宅地に、めんこい女子が生まれ落ちた。
たゞ、母親が悪ひ人間だつた。最初のうちは普通の親だった。
けれど父親の酒癖が悪く、生まれた娘が四歳のときに離れてからは娘に八つ当たりするようになった。
なにもしてないのにたたき、挙句の果てには後継ぎの問題だと話を捻じ曲げて、ほうきでなぐったりとかひどいことをするようになった。つごうのいいときにはああしなさいこうしなさい、もうめちゃくちゃな家庭だった。

わたしはだめなこども。
おかあさんにいわれたとおりのことができないし、なぜかきらわれてしまう。
それだから、おかあさんはわたしのことをなぐったりたたいたりするの。でも仕方ないと思っている。
ほんたうにわたしはなにもできないのだから。あゝ、もう、いへをおいだされちゃいさうだな。ごめんねおかあさん。
一丁目 一番地 の「遊び帰りの少年」
しかられ娘の名前は昭子といった。冬のある日女は後継ぎできないからといって家を追ひ出されてしまつた。
昭子が何もできずに泣ひているとマリンキヤツプの学生帽がよく似合ふ一人の少年が家の前を通りかゝつた。
少年は昭子の前にしやがみ込んで「だうしたの。あんた、こんなところにいて寒くないのか。」と優しい声で聞ひた。
昭子は事情を説明した。
少年は陽平といふ。八歳だ。裕福ではないが気の利ひた少年だつた。を互ひに名乗り合ふとさつそく陽平は昭子に触れた。
田舎っ子 絵
田舎っ子 説明
「うゝん。だうしやうか。ぼくんちに来ますか。まあ、あんたが嫌でも心配だから、とりあへずつひてきて。」
「うん。」昭子は陽平の手に掴まつて立ち上がると、陽平の家に向かつて手をつないで走つた。
「たゞいま。」陽平は「ちよつと待つてて。」と家に入つた。
昭子は不安になりながら家の中から聞こへてくる会話を聞ひていた。
「母ちやん、家に入れてもらへない女の子連れてきたんだけど、だうしたらいゝかな。」
「あゝ、かはいさうな子。だうか入れてあげてちやうだい。」
「来ていゝよ。よかつたね。」陽平は昭子を空ひている部屋に案内した。
「ありがたう。」昭子はそれしか言へなかつた。
「昭子、これ見てみ。」陽平はさう言つて、昭子に手回し蓄音機を見せつけた。取つ手を回すと、ぷち〱と籠つた音が流れ出す。
「すごいねえ。」昭子の家にはないので興味津々だつた。「へゝつ、あんたも笑ふんだね。」陽平は無邪気に笑つた。
昭子はそんな陽平が少し気になつていた。
少しすると、じりりりりんと黒電話が揺れた。
「あ、はい。わかりました。」がちんと電話を切る音が聞こへた。
陽平のおかんは言つた。「昭子ちやん、帰つてをいでだつて。気を付けてね。」
渋々出ていく昭子を、陽平は心配さうに見つめた。遠く、小さくなつていくのを何もせずに見るしかなかつた。
なんだかさつきの電話がきな臭くて、ぼおつと何かを考へた。おぼこい頭で考へた。
二丁目 一番地 の「逃亡生活は楽なもの。あれとくらべたら」
昭子が帰ると、「何をしとつた を仕置きや。」と水をかけられた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。死んでやり直すから、許してください。」そんなことするなよ
昭子はまうむりかと思つていた。
そのときだつた。「失礼します」と元気な声とともに部屋の戸が開ひた。
そこには息を切らして立つている陽平の姿があつた。不思議と心強くなつた。
「やめてください!その子はなんも悪くないんです」と昭子とおかんを引き離した。
「昭子、逃げよ」陽平は昭子の手を引いて家を飛びだした。
「待てばか娘。」食器を投げられても構はず逃げた。
実際、昭子のおかんはまともじやなかつた。
ばりん〱響く音から逃げた。
「陽平くん、怖ひよ。」「大丈夫だ。昭子は誰にも傷つけさせんからな。」
まあ〱遠い陽平の家に辿り着ひた。「まう来ないんでせうか。」昭子は怖くなつて陽平に抱きつひた。
「やつぱり危ないよ。こつちは全然問題ないから、ぼくのとこにいて。こんなびつしよびしよになつて、また冷たい水かけられてなんて、そんなかはいさうなことさせへんわ。」
その日から昭子は陽平の家に逃げて暮らすことにした。
そして数日たつた時、昭子のことはすぐ噂になつた。近所のおばさんの情報交換ほど恐ろしいものはない。
内心怖くて家に籠つている。
「ばれたらまずいね。」陽平は、昭子が怖がらないやうに優しく手を握つた。
「陽平くん、あたし、大丈夫なんか。」「多分。いや、絶対大丈夫だから安心してくれたらいゝ。さっ、こんなの話してても気分悪くなるだらうから考へるのはやめよ。」さう言つて、針を落とした。
「―おてて つないで 野道を行けば みんなかあいい小鳥になつて―」
さういふ陽平ももう見つかつているに違ひないと思つていた。家の人も知つていた。
なので、次の日親戚のうちに移動した。これで当分見つかりはしないだらう。
二丁目 二番地 の「ばれたらだめくよ」
しかしそんな暮らしも一か月あまりしか続かなかつた。来月には家の戸を叩く音が聞こへて、「昭子、ちよつと待つててくれ。」と陽平は制帽を深くかぶつて外に出た。
すると警察がきた。陽平は勇気を出して警官を睨みつけた。
まず一つ聞かれる。「昭子さんはいませんか。」
「今、留守でして。まう少し待つてもらへませんかね。」
その時は大人は出かけていた。
昭子はなぜか外に出てきてしまつた。「をい、見つけたぞ。」警官たちは昭子をそのまゝ連行していつてしまつた。
「待つてくれよ、この子が何をしたつていふんだよ。」陽平はくじけさうになりながらも後を追つた。
怖くて体が震へてくるが、考へるのをやめてやけくそで「殺されかけたから逃げてきたんだがなも。なんもしとらん」と叫んだ。でも「離して。家に帰つたら殺される。」泣きわめいて抵抗する昭子を見ているのが耐へ切れなくて、陽平はその場に膝から崩れ落ちた。「返せえ、昭子を返せえっ。」聞く耳を持たない奴らの前に絶望して狂つたやうに叫び続けた。
諦めて家に帰つても昭子はいなかつた。
しかししばらくすると家の扉が開ひた。
すると、昭子が入つてきた。
どうやら、話だけ聞ひて返されたらしい。
「よかつた。会ひたかつたよ。」昭子は陽平に泣きついた。陽平は安心して昭子の背中を叩ひた。
そのうちもらい泣きして恥ずかしさうに咳き込んだ。
三丁目 一番地 の「からかい男子」
でも次の日から昭子は学校でいじめられるやうになつてしまつた。
何も知らない陽平は、なんとなく最近元気のない昭子をわけもわからないまゝ心配した。
なんでもないとしか言はない昭子が気になつて、部屋で見つけた日記帳をのぞひてみた。
よけひに心配になるやうなことが書かれていた。

一月十二日
さいきんおなじくみの男子がからかつてくる。「をまへいへでしたんだつてな」
なにがわかるといふのか。はなしかけないでほしい。

一月十三日
あの男子があとをつけてくるやうになつた。なんかあるたびにいち〱はなしかけてくるし、こつちを見ながらちいさいこえでいやなことを言つてくる。

一月十四日
けふはいへのまへまでついてきて、ついてこないでよつていつたらいきなりへんなこへでわらひだしていろんなところをさわられた。きもちわるひ。

一月十五日
せんせいのはなしをきいているときにもなんかちかくでごちや〱言つてる。もうなにもいはないで。

ほかにもいろんなことが書かれたのを一通り読み切ると、陽平はだうしやうもない気持ちになつた。心の底から苛立つてるけど今まで気づひてやれなかつたのがだうしても引つかかつた。
すぐに立ち上がつて、昭子の部屋に駆け込んでいつた。
そして反射的に、最初の紙を見せつけながら「こんなことしたの誰だ。手出しするなんて絶対許さない!」と昭子に向かつて怒鳴りつけた。
少し間を置いて、「 同じ班の○○。めんどくさいことになるからとくに何もしなくてゐいけど。」といつもの元気のない声で言つた。
「なんてひどい奴だ!ぼくがだうにかしてやるからね。」と昭子をくしや〱に撫で繰り回した。
とはいつても、すぐには行動しなかつた。
なので次の日は帰つてきて、昭子は泣きながら抱き着ひてきた。
「だうしたんだよ、あいつにやられたのか、これ。」あちこちに青たんができていたのだ。
昭子は震へる声で話し出した。「階段で、階段であいつが押してきた。」何も言ふ事が思ひつかないみたいだ。
「なんだよこれ、酷ひ怪我だ。痛かつたよな、よく頑張つた。」陽平は優しく頭を撫でた。
こんなに大切にしてもらへて、何故だか分からないのにもつと泣けてしまつた。
次の日登校してすぐ、例の奴の教室に飛び込んでいつた。
奴は堂々と昭子にちよつかいを出している。
「を前だな!昭子をいじめてるのは!」陽平は勢ひよくそいつのほつぺたをばしつと叩ひた。
昭子は、本当にやつちやつたといふ顔をして見つめている。
「だからなんだよ!」奴はぐち〱文句を言つてる。「ゐい加減にしろ!『ぱちん!!』」二度目を打つ。
そのとき教室に入つてきた担任は、いがみ合つてる二人のもとに駆け付けた。
そして二人を引き離した後、陽平を強く押さへつけて、
「学年すら違ふくせに入つてきてうちの組の奴に手え出すんじやねえぞ小僧!!」と顔をぶつた。
周りの机を巻き込んで後ろへ押される。昭子の机にもたれかかつて床に鼻血を垂らしている。
暴力教師は失神した陽平をそのまゝ引きずつて職員室の前に連れて行つた。
そのあと無理やりたゝき起こすと、職員室の前に立たせたまんま説教を始める。
「を前な、大人になつたらうんたらかんたら」とよくわからない話をしだした。
「けえゝつ。そうなんだあ。」適当に聞ひてるうちに話は終はつた。
「はい、帰れ、帰れ。」帰宅後、昭子は「大丈夫だつた。」と聞ひた。陽平は大丈夫だつたと答へたが、あちこち傷だらけだつた。次の日からは奴も注意を受けたらしく、昭子をいじめることはなくなつた。
公園に行つてもあいつが来ることはないのでふたりは上機嫌だ。蚊にたかられる陽平だつて、気分良けりや腕まくつて、「を前らいつぱい血を吸つて元気な子供作れよ」と体中真つ赤にして言ふ。帰り道、痒ひ痒ひと喘ひでいる。家に着く頃にはもう全身かきむしるものですからぼろ〱で、冷たい井戸水を頭から浴びるとさつき引つ搔いた傷口がずき〱神経を踏み潰す。「かあつ、いてえや。」下着を着ながらさういふのであつた。黒光りするさら〱の短髪が風になびいてすぐ乾く。元気な少年がかあいいと、昭子は苦笑ひして見つめてる。
「さうだ、ちやうど切れとるんやつたわ。からあ、マツチ買ふてくる。すぐ帰るから、待つといてや。」
「うん。」何気なくこつちを向ひている昭子の顔が一瞬白黒に見へた。
ただそんなこと思ひにも留めずに、さつき降り始めた雪の中を進んでいつた。
まだこのころは暑すぎることも寒すぎることもなかつた。
あ、マッチは切符制でした。
四丁目 一番地 の「終わりの始まり」
そのあと二人はいつも「今日も楽しかつたあ!また一緒に公園行かうね!」「よし、じやあ明日行かう!」こんな話をしながら、何気なく一年を過ごした。次第に兄妹のやうになつていき、「兄ちゃん」とも呼ばれるやうになつていた。
デモ翌年、戰争ガ始マツテシマツタ。
洋楽ノレコオドハモチロンノコト、金属モ回収サレテイツタ。近所ノ若者ハ、赤ヒ紙ノセイデドコカニ行ツテシマツタ。
昭子ガ見タ最後ノ若者ハ苦シ気ニ笑ツテイタ。
アチコチデ聞コヘテクル行進ノ足音ト軍歌ガ耳ヲ突キ抜ケタ。
近場ノ球場ノ、「『キンツ!』 球ヨシ!!」トイフ音ダケガ明ルク響ク。
街ニハ、「贅沢ハ敵ダ」ノ文字ガヒトキワ目立ツ。ソレデモ必死ニ生キテイタ。ミンナ頑張ツテイタ。若ヒ人タチハミンナ戰場ニ送ラレテシマツタケド、イツダツテ元気イツパイナ子供タチダヨ。
征ツテキマス。オトンハサウ言ツテ列車ニ誘拐サレテイツタ。
昭子ハ何モワカツテイナカツタ。タダ、陽平ハ無性ニ悲シクナツテ、笑顔デ敬礼シナガラポロ〱泣ヒタ。
見送ツタ後、「ダウシタノ。オ父サンハ立派ニ行ツテ、嬉シクナイノ。ネエ〱、私タチ勝テルヨネ。」ト言ハレテ、
「ウン、日本ハ勝ツヨ。絶対。」ト泣キナガラ答ヘタ。今スグニデモ泣キ崩レタイ気持チダッタ。
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田舎っ子 説明
四丁目 弐番地 ノ「アアハア、ツカレタア。」
陽平ノヲカンハ昭子ノコトヲ自分ノ子ノヤウニカアイガツテイタ。
ナゼナラ、陽平ガマダ幼ヒトキニ第一子ヲ病気デ亡クシタカラデアル。
アノ頃ミタイニ仲良シノフタリヲトニカク大事ニシテ、コンナゴ時世ダケドモイツモヨリ明ルク接シタ。
イツモ通リフタリヲ寝カシツケルト、ヲトンニ手紙ヲ書クタメ部屋ヲ出テ行ツタ。コヽ最近デ、ユリカゴノウタヲ何度聞ヒタダラウカ。
昭子ハ近頃全ク笑ハナイ陽平ガ心配デ、グズ〱一人デスヽリ泣ク。ソノ声ハ陽平以外ノ誰ニモキコへナカツタ。
真夜中ニナルトモマウ寂シサト不安デ「ウツ、ウエヽン。」ト幼ヒ子供ミタク泣キ出シタ。ソノウチ泣キ声モ大キクナルバカリダ。ヤッパリ、不安ニナルノダラウ。マダコノ歳ダト。明日死ヌカモシレナイノニ、死ニタクナイト言ヘナイノガツラカッタノダラウ。
昨日モソノ前ノ日モ、一晩中慰メタリ、ウルサクテ一睡モデキナカツタリシテ、目ノ下ニハ真ツ青ナクマガデキテ、生キテイルノカワカラナイホドヤツレテイタ。
エラク疲レテイルトキダト「黙レヨ。ヲ前ノセイデドレダケ迷惑カカッテルノカワカランノカ。モウイヤヤ。」トフタリシテ泣キ叫ビハジメテ、敵ニ居場所ガ知ラレテシマウトイッテ厳重注意ヲ受ケタコトモアッタ。耐ヘラレナクナツテ、「ヤカマシイ!静カニシロ!」ト怒鳴リツケタ。弱リキッテシマッタセイデ、シャガレタ声シカ出セナクナッテイタ。静カニナルノヲ待ツテイルウチニイツノマニカ弐人トモ寝ツイタ。
シバラクシテカラ、昭子ハマタ〱寂シクテ、陽平ノ布団ニモグリコンダ。シカシ、寝返リヲウッタノガ当タッテマタグズリダシタ。陽平ハ泣キ声デ目ヲ覚マシテ、生気ノナクナツタ目ヲ眩シサウニチヨツトダケ開ヒタ。
「ルッッサイツテ言ツトルガナ。」反射的ニ足ヲ伸バシタ。
ソシテオモムロニ起キ上ガリ、昭子ニソツト声ヲカケル。「昭子、昭子。」昭子ハユツクリ顔ヲ覆ツテイタ両手ヲオロス。陽平ハ小動物ヲ撫デルヤウニ昭子ノ顔ヲ濡ラス涙ヲヌグツテヤツタ。
ソシテ優シク問ヒカケル。「ダウシタ、昭子。寂シクナツタノカ。」
「アノネ、アタシ陽平クンノコトガ心配デ心配デ仕方ナイノ。最近元気ナイヨネ。」
陽平ハ一瞬デ、怖クナツタヤウニ半目ノ寝ボケマナコヲ見開ヒタ。
心配サレルノガ恥ズカシイトイフカ、遠慮シテイルヤウナ気分デ、
「元気ナイナンテ、ソンナコトナイヨ。アツ、ホラ昭子モボクノ心配バツカシテナイデヨク考ヘヨ。
明日早インダカラサ、今日ハモウ寝ヤウヨ。アノ、心配ナラ一緒ニイテアゲルカラ、泣カナイデ。」
陽平ハユツクリ昭子ヲ抱キ寄セテ腕枕シテヤツタ。スルトサツキマデシヤクリ上ゲテ泣ヒテタ昭子ガスグニ大人シクナツタ。参拾分ホドスルト、昭子ハドキツトシテ陽平ノハウヲ見タ。相変ハラズ、気持チヨササウニ昭子ヲ抱キシメテイル。「ンツ。「昭子、コンナ時間ニ何シテルノ。」トロントシタ目デ見ツメラレテ、ハアモウ言ヒ返ス言葉ガナイ。
「アツ、ソノ、ナンデモナイヨ。」返事ハ来ナカツタ。
ナゼカ、ソノトキニナルト、胸ガ締メ付ケラレテシマツテ、優シイ目デ見ラレルトモウヲ相手ハ地面ダヨ。
四丁目 参番地 ノ「ネシヨンベン坊ヤノ悪ヒ夢ハ終ハラナイ。チンチコチンノオシルコ」
デモコヽ最近陽平ハ悪夢バカリ見ル。ソノ内容ハコンナモノダツタ。
陽平ト昭子ハ、無限ニ上ニ続ヒテイル、ハシゴガカカツテイルダケノ細長ヒ建物ニ住ンデイテ、果テシナク上ニ登ツテイクトソノウチ真ツ赤ナ光ガ見ヘテキテ、上ガリキツテミルトソコハ火ノ海デ、フタリガソノ地面ニ足ヲカケルト入口ニナゼカ陽平ノ友人ノ焼死体ガ無造作ニ転ガツテイル。
不思議ト怖ヒトハ思ハナイ。上ニ行クトタダ真ツ赤ニ広ガツテイルダケデ物ミタイナ人間ガイルダケダツタ。
下ヲ見ルトモウフタリガ通ツテキタ穴ハナクナツテイテ、気ガ付イタラ昭子ガソコデ溶ケテイタ。
ソンナコトモ気ニセズ歩ヒテイルト扉ガアツテ、入ツタラナゼカソコハ知ラナイ人ノ家ノ庭ダツタ。ミンナノ楽シサウナ声ガ聞コヘル。シバラクスルト突然ウナリ声ミタイナ音ガ大音量デ聞コヘテキテ、蜂ミタイニ空飛ンデル怖ヒ物体カラ黒イツブ〱ガタクサン降ツテクル。ソレハタチマチマブシク光ツテ大キナ爆発音トトモニ青ク澄ンデイタ空ニ巨大ナ毒キノコガ生へテキタ。「ギヤア、大変ダ。」陽平ハ全速力デ逃ゲ出シタ。疲レ果テテノドガ痛ヒホド息ガ上ガツテ、近クデ音ガ聞コヘタアトニ喉ガ焼ケルヤウナ感ジガシテ痛クテソノマヽバタント倒レタ。
「イヤダ、死ニタクナイ、死ニタクナイヨ。」暑クテ暑クテ立チ上ガレナイ。
元気ガナクナツテイツテ、真ツ黒ナ目ニ赤イ火ノ手ヲ映シナガラ意識ガ遠ノイテイツテ、夢ヲ見テイナイ真ツ暗ナ状態ニ戻ツタ。トイフヤウナモノダ。
起キテイルミタイニ何度モ何度モ動キ回ツテ気ヅカナイウチニ隣ニイル昭子ノ頬ヲ蹴リ飛バシテ、元ノ位置ニ、楽ナ姿勢ニ直シテアゲヤウトシテ足ヲ掴ンダ昭子ヲサラニモウ一度蹴リ上ゲタ。「痛ツ。何ヨ。」
マタ、ホドナクシテ顔面ニカカト落トシヲ喰ラワシタリ怖ガル体ハヤリ放題。「助ケテ。肌ガメクレテ寒イ。デモ熱線ノセイデ暑イヨ、誰カ。」ダカナンダカブツ〱言ツテイル。「チヨツト、ドツタンバツタン何事。」
オカンガ部屋ヲ見ニ来タ。
「アノネ、陽平ガ蹴ッテクルノ。(痣ヲ見セル)」
「コレハイカンワア。ホラ、障子ニモ穴開ヒテルシ」
「昨日マデコノ痣モナカッタノニ」
オカンハ陽平ヲ揺スッタ。「起キナサイ。 エラク魘サレテルミタイダワ。コリヤイカン」
「ソレジヤア、担ヒデドウニカスルカ。」ト言ヒ、オカンハ陽平ヲ抱キ上ゲタ。
ソツト敷キ布団ノ上ニ降ロシタトキ、
「焼カレル。」ト言ツテビツクリ、ガバツト起キ上ガッタ。「ヤダ!死ニタクナイ!」
シバラクジツト、オカント昭子ノ顔ヲ交互ニ見ツメタアト、急ニ泣キ出シテ、
「母チヤアアアン!!コレジヤ僕タチ死ンジヤウ!タスケテ!タスケテエツ!!!!!」
トオカンニ抱キツイタ。
「陽平クン、離レテアゲタラ。」昭子ガサウ言ツテモ泣キ声デカキ消サレル。
「ゴメンネ、チヨツトヤルコトガアルカラ。」ト言ツテ離レヤウトシテモ、「ヤアダ!コヽニイテ!!行ッチャダメ!」ト泣キ叫ンデ服ガ破レサウナホド引ツ張ツテクルノデダウニモ離レラレナイ。
「シヤウガナイナア。落チ着イテキタンナラアツチ行クカラ。モウ、男ガ甘ツタレルンジヤナイヨ。」ト頭ヲ優シク撫デタ。
次第ニ声ガ小サクナツテイキ、無防備ニ寝転ンデピクリトモ動カナクナッタ。
シバラクスルト汗ダクデ泣キジヤクツテ飛ビ起キタ。オ尻ノ下ハビツシヨリデ、アマリニモ怖ヒカラネシヨンベンマデシチヤツテル。
下着替ヘテ戻ツテキタ、放心状態ノ陽平ガ昭子ニべツタリ抱キツクト、「ホラ、大丈夫ダヨ。私ズツトコヽニイルヨ。」ト、コンドハ昭子ガ陽平ヲ安心サセルヤウニ抱キ合ツテソノマンマ夜ヲ過ゴシタ。
伍丁目 一番地 ノ「ヤセガマンツテナンヤロナ。飢餓ノコトジヤナイカシラ。」
空襲ガ来テ、頭ノ上ノハウカラ火ガ降ツテキテ、ヤガテ足元ニ落チテカランコロント真ツ赤ニ燃ヘルト、ミンナハ一斉ニ逃ゲタ。手回シサイレンノ音ガ聞コへル。ドコカカラ、「コレハ演習ジヤナイ!コレハ演習ジヤナイ!」トイフ声モ聞コへル。山ノハウニ行クト野生動物ノ焼肉ダツテアルシ、ウチノ近クデハ焼ケタ家畜ヲミンナニ分ケテタヨ。
コノコロハ、マダ〱楽ダツタ。ミンナ、逃ゲ切ツタト思ツテイタ。
デモアル日昭子ハ逃ゲ遅レテ、転ンダ拍子ニ足ノ付ケ根ガチヨツト焦ゲテシマツタ。
ナントカ逃ゲ切ツテ陽平ノトコロマデタドリ着イタ。
昭子ハ責任感ヲ感ジテ、破レタスカアトヲ腹ノ上マデ持チ上ゲテナントカ隠シテイタ。
「ダウシタンダヨ、ソレ。ハンケツ見ヘテルゾ。」陽平ハサウ言フケド、
「気ノセイジヤナイ。何シロ今ハ気ニシテラレナイジヤナイ。」
ダウダラウ。見ツカルノモ時間ノ問題ナノデハナイカ。
フタリハドウシヤウモナク飢ヘテイタ。配ラレル分ダケデハ足リナクテ、弐人トモカリツカリニ痩セコケテイツタ。
虫スライナクナツテシマツタ。ソンナトキニハ、フタリノ仲モ切レカケテシマフモノダ。
「今日モコレシカナイノ。ゴメンネ。」トセツカク親戚カラモラツタナケナシノ野菜ノコトデ揉メテ、
「チヨツトハ私ニモチヤウダイ!」「イヤダ、コレハボクノダ!」ト取リ合ツテイルウチニ陽平ガ
「ヨコセ!ドウセヲ前ナンテ弱ヒカラスグ死ヌンダヨ!」ト昭子ノ手カラ全部取リ上ゲテシマツタノダ。
年下ノ幼女相手ニ、大人ゲナイ。
 取られちゃった
「ナンデ、分ケレバイジヤナイ!」「ヤカマシイ!コノツ、ヘチヤムクレ!」「ヒドイ、大嫌イ!」昭子ハ何モデキズニソノ場デ泣ヒテイタ。ツイ〱強気ニナツテシマツタ陽平ハ、「ヲ前モ欲シケリヤ取ツテミロヤ!バアカバアカ!」ト遠巻キニ挑発シタ。陽平ハ一度ハ逃ゲテミタモノノ、自信ガナクナツテキテ急ニ駆ケ寄ツテキテ
「ヲ、ヲイ、ヲ前、ズウツトソコデ待チ構ヘトツテ、殴ラレタインカ!アツ、ソノ気ヤナ!覚悟デキトウト!」
サウ言ツテ昭子ノ首根ツコヲ掴ンダ。殴リカヽルカト思ヒキヤ、「ホレ、ヤルヨ。死ニテウナインヤツタラヤルワ。ホイ。シヤアナイヤツチヤナ。スマナカツタヨ、ゴメンナ昭子。」
ト目ヲ逸ラシナガラ差シ出シタ。
昭子ガ受ケ取ルトキ、「大事ニセエヨ。コレガ最後カモヤカラ。ナツ。」ト手ヲギユツト握リシメタ。
昭子ハ顔真ツ赤ニシテ目ヲパチクリサセテイル。
「アツ、アトナ、心配ナンヤ。モシ、モシモダケドボクノ頭ガヲカシクナツテソノ、昭子ヲ叩キ殺サウトデモシタラ、コレデ殴リ殺セ。モウ、食ツテヤツテモイイカラヤツチマヘ。ヲ前ヲ殺シタクナイカラ先ニヤレ。
ソレハ誰ニ対シテモノコトダヨ。ヲ前ノコトヲ脅カソウトスルアホタレハ、一人残ラズ殺セヨ。
ボクタチ日本人ハ、死ヌトキヤ死ヌンダヨ。潔ク。サウダロ。
名誉ニナルンダツタラ、日本人ノ尊厳ヲ汚サレルクライダツタラ死ンジマヘ。ソレガ美シク散ルコトヤ。
ヲ前ハ、最後マデマツトウシナキヤ美シク死ネナイ世話焼キナンダカラ、ガムシヤラニ生キテロ。
ボクノ体ヲ食ツテ生キテロ。ワカツタナ。」
陽平ハサウ言ツテ棍棒ヲ渡シタ。話シテイル途中、視線ガ泳ギヨソ見シテバカリイタ。去年トハ打ツテ変ハツテ、頼モシイ手ノヒラダ。昭子ハ嬉シサウニ笑ツテ、「アリガタウ。」ト喜ンダ。
伍町目 弐番地 ノ「ハラヘツタ」
サラニ生活ガデキナクナツテクルト、アチコチカラ持ツテキタ葉ツパヤラヲ、体全体デ抱ヘテ、持チキレナイ分ヲ無理ヤリクハエテ信ジラレナイホド急イデ帰ツテクル。数分スレバ怒鳴リ声ガ聞コヘテクル。ケド何モシテイナイト言フ。アル日ハダウシテモヲ腹減ツテ、喉ガ乾ヒテシマツタノデ、陽平ガ自ラヲ犠牲ニシテ腕ノ肉ヲカジラセタリ無理ナイ程度ニ血ヲ飲マセタリシテイタ。アマリニモ痛クテ泣ヒテシマウガ、オ腹空カセタ昭子ガスゴク美味シサウニスルノデ、唸ツテシマフニシテモ表情ダケデモ無理ヤリ笑フヤウニシタ。片方ノ袖デ涙ヲヌグツテ。
昭和の子 絵
昭和の子 説明
実ハ、ハジメハコンナコトヲスルツモリハナカツタ。
アル日弐人ガ庭デ穴ヲ掘ツテイルト、割トヰイ歳シタ少年伍人組ガ勝手ニ割リ込ンデキタ。スルト真ツ白ナシヤツ着テ木ノ棒トマツチ棒持ツタ奴ガ、
「ワツハア!コヽニカアイイ女イルジヤン!ヲイヲ前ラ協力シテ捕マへテ持チ帰ラウゼ!」ト昭子ヲガツシリ掴ンデ強引ニ連レ去ラウトスルノダ。コンナ状況デ何ヲスルトイフノダ、悪ガキガ。
「待テコラ!ソイツハボクノ大事ナ家族ダゾ!」陽平ハナンノタメライモナク止メニ入ル。
「ウハツ、ツイデニ元気ナチビモイジメテヤラウ!」悪ガキタチハ、昭子ソツチノケデ陽平ニ殴リ掛カツタ。陽平ハ小柄ダツタノデ馬鹿ニサレテイタ。
陽平ハボカ〱叩カレナガラモチヤント一人ヒトリ突キ飛バシテイツタ。
「ハア、ハア。コノアホタレドモ、ハヨ帰レヤ。」数ノ暴力デボコ〱ニサレテシマツテモ残ツタ最初ノ少年モアイツラト一緒ニブツ飛バシテヤラウトシタ。スルト声ガ聞コヘル。「チヨツト、ヤメナサイ!」悪ガキ首謀者ノ後ロニハ姉ト思ハレル少女ガ立ツテイタ。「アンタソンナコトシテソノ子タチニ怪我負ハセデモシタラダウヤツテ責任取ルツテイフノ!馬鹿ナ事ヤメナサイ!」ト悪ガキヲ引ツ張ツタ。
「ウルセエヤメルカ!」無理クリ抜ケ出シテキテ、今度ハ陽平ノ腕ヲ掴ンデマジ〱ト見テイル。
「ナ、何スルンダヨ。離セヨ。」陽平ガ恐ル恐ル下ヲ向クト、ヤハリ少年ハ鋭イ木ノ棒ヲ突キ立テテ、陽平ノ腕ヲヒツカコウトシテイタ。「イツテエ、ヤメナサイツテ言ツトルガナ!相手ハマダ小サイ子供ヤロ!アンタヨリイクツカ年下ナンヤデ!フザケンナ!」激怒シタ少女ガ後ロカラ怒ツテモ少年ハ全ク反応シナイ。ヨク見ルト少女ノ後ロニハ昭子ガ心配サウニヲ姉サンノモンペヲ引ツ張ツテ怖ガツテ隠レテイタ。
「エツヘツヘエ、ヲ前、コンナコトサレタラ泣ヒテマウヤロオ。」
ウザツタイ悪ガキハギリ〱木ノ棒デ引ツカク。「ヤメロヨ!離セ!離セツテ!」陽平ハ弱リ切ツタ力デ抵抗スルケド悪ガキニハ勝テナイ。血ガボタ〱垂レルホドエグラレタトキ、タウ〱泣キ出シテシマツタ。
「ヤメロ。助ケテ。」ツイニ男ノ弱ミヲ見セテシマツタノダ。
「ウワアア!!カワイソオ!ハツハツハ!泣ケ泣ケエ。」悪ガキハ陽平ガソノ場ニグシヤツト座リ込ンデモナヲ傷ヲエグリ続ケタ。「ホラ泣カセタ!チツチヤイ子イジメナイツテナンベンユウタラワカンネン!ドケ、アホウ!」ツイニ少女ハ悪ガキヲ押シノケテ陽平ヲ引キ寄セタ。少年ハ穴ニズドント落ツコチタ。「ヤイ小僧、出セヤ!」日ノ丸ノヤウニ赤イ昭子ノスカアトニ、悪ガキカラノドロンコガ飛ビ散ル。「キヤツ。」ソノトキアノヤケドガ少シダケ見ヘタ。急ヒデ隠シタ。「大丈夫、ジヤナイヤロナ。コンナズタボロニサレテ。スグ何トカスルカラネ、安心セ。」サウイフト、陽平ニ付ヒタ砂ヲキレイニ払ヒ落トシテ抱キ上ゲタ。血ガ大量ニ減ツテクラ〱スルノカ家ニ向カツテ走ル少女ノ腕ノ中デグツタリシテイタ。スツカリ暗クナツタ空ヲ薄目デボンヤリ見ツメナガラ。ツイテキタ親戚ト昭子ハ、「陽平、大丈夫デセウカ。」ト心配シタ。ソシテミンナ連レダツテ少女ノ家ニ来タ。
ヤツパリマダ目ノ前ハグル〱ボヤケテイタ。陽平ノ目ニハ、ノゾキ込ム参人ノ顔ガウツスラ見ヘテイタ。
ケドソコマデ深刻デハナク、軽イ貧血ノアトスグ元気ニナツタ。
ソシテ帰ツタ後陽平ハ、ヲ腹ヲグル〱鳴ラシテイル昭子ニ傷ヲ舐メサセタ。
スルト昭子ハ、「ナンダカ悪ヒンダケド。アヽ美味シイ。久シブリノ鉄分ダワ。ゴメンナサイ。」ト言フノデ、チヨツトバカリカジラセルヤウニナツタノダ。陽平ハ恥ズカシサウニ笑ツテ、「イヽヨ。コレデ誰カガ助カルンダツタラマウダウデモエヽワ。」ト答ヘタ。
ソレカラトイフモノ、バサツ、バサツト家ノ前ノ草ムラニ鮮ヤカナ赤ヒ液体ガ落チルノハフタリハヨク見テイタ。
家ノ前ニハ大量ノ血ガ垂レタ跡ガ色濃ク残ツテイル。
数日目ハモウ完全ニ傷ガボロ〱ニナツテ、神経ソノモノガブツ壊レサウナホドヒドク痛ヒノデ
「痛ヒ。痛ヒヨ。」ト泣キ叫ンデノタウチ回ル。「ゴメンネ、ゴメンネ。私ガ憎カツタラ殺シテ食ツテモヰイカラ。」無理ヤリニデモ。
デモ陽平ハ昭子ニ生キテホシクテ、血ダラケノ腕ヲサラニエグリ出シテ傷ヲモツト広ゲタ。痛クテモナンダカンダヤメラレナカツタ。切リ刻ムタビニ、グサツ、ビシヤ〱ツト体液ガ噴キ出ス。
自ラノ指先デ、自ラノ傷ヲ広ゲルノダ。世界デ一番痛ヒ食事デス。体ガアルツテイヽネ。ボクラモオンナジ人間ナンダ。ソシテ昭子ハソレヲ陽平ノ目ノ前デズブ〱飲ミ干シテイル。ソシテ陽平ハ苦シサウニ微笑ンデ
「ドウダ昭子、ボクノ身ヲ削ツテ食フ生肉ハ美味ヒカ。」ト目カラ味ノナイ涙ヲポタ〱コボシテ言フ。屈辱デハナイ。陽平ハモウ自分ノ体ノコトナンテダウダツテヨカツタノダ。
「モツト素直ニ痛ガツテイヽノ。無理シテ固マツテル体ハ噛ムタビ苦シクナルヨ。」昭子ノ口カラモ入リキラナイ血液ガボタ〱音ヲ立テテ落チタ。ダケドアル時本気デ少シダケダケド噛ミ千切ツテ食ベヤウトシタコトガアツタ。ソノトキイツモ喜ンデカミツイテタ昭子ガ初メテ泣ヒタ。急ニ陽平ガカハイサウニ思ヘテキタミタイデ、大泣キシダシタト思ツタラ突然小サナ肉塊ヲソノ場デ勢イヨク吐キ出シタ。弐人トモ唖然トシタ。マウシバラク経ツタケド傷ハ残ル。
マア、コンナ生活ヲシテイレバ無理モナイ。アル日ノ事ダッタ。幼馴染ガ「カッチャンガ、死ンダ。」ト急ニ言ッテキタ。モウ狂ッテナキャヤッテラレナイノカ、誰モ何モ言ハナカッタ。
伍町目 参番地 ノ「休メヌコドモ」
結局陽平ハオ人ヨシモイヽトコロデ、昭子バカリ気ニシテイルセイデ体ヲ壊シテシマツタ。
毎日毎日カン〱ニ熱ヲ出シテソレデモフラ〱働ヒテイルノデアル。休メルヤウナ時間ハホンノワズカ。楽シイトキノ大放課クライノ短サダ。「陽平クン、オバチヤンニ頼マレテネ、チヤウドソコノ川デ汲ンデキタ水持ツテキタヨ。布巾ニ通シタカラバツチイヤツジヤナイヨ。」涼シイノニ汗ヲカイテル。昭子ハ一息ツクヤウニ陽平ノ隣ニ正座シタ。
「アツ。アリガタウ。」「カハイサウニ。絶対私ガ治スカラネ。」「アヽ、ウヽン。迷惑カケテゴメン。ウヽ、アヽ。」今ニモ死ニサウナ様子デ喘グ陽平ハ全身青白カツタ。
「大丈夫カシラ。手ガ冷タイヨ。」「アヽツ、気持チ悪ヒ。ンヽ、ポン〱モ痛ヒ。」
「セツチン連レテ行キマセウカ。」話シ声ヲ聞キツケタ親戚ガ向カウノ部屋カラ「昭子チヤン、陽平クンハ話スノモ苦シインダカラ、アンマリゴチヤ〱言ハントイテヤツテ。」ト、静カニスルヤウニ促シタ。昭子ハシブ〱、「ウン」ト承諾シタ。
「陽平クン、ヨクナルトイヽネエ。」次ノ瞬間ダツタ。
「昭子、アブナツ、グエツ!ゲホツ、ケフン、アツ、ウヽ、オエヽツ。フウ、フウ、苦シイ。ハア、ウン。イヤダヨウ、苦シイヨ。」陽平ハ瘦セスギテナニモ吐キ出スモノハナイツテイフノニ、親戚タチモ見覚ヘノナイヤウナトンデモナク不衛生ナモノヲ次々戻シタノダ。
「キヤアツ、オバチヤン、陽平ガゲボ吐ヒタア!」親戚ハスグ駆ケ付ケタ。
マダ吐キサウニシテイルケレド苦シサウダツタノデ、
「ホラ、出シナサイ。汚シチヤツテモイヽカラ全部吐キナサイ。怖ガラナイデ。出シ切ツタラスツキリスルヨ。」
ト口ノ奥マデ指ヲ突ツ込ンデ、舌ベラノ付ケ根ト喉チンコノ間ヲクツト押サヘタ。「グエツ。」
「大丈夫、今カラ気持チ悪ヒノ治シテアゲルカラネ。」
ソシテ、「私ガ押サヘテルカラ昭子チヤンハ背中ヲ叩ヒテアゲナサイ。」ト、陽平ノ体ヲ起コシテ支ヘナガラ親戚ハ言ツタ。昭子ハ言ハレタ通リニ背中ヲバフく叩ヒタ。スルト、ゲエツト最後ノ一回ヲ吐キ出シタ。
床ニギシツト体重ヲカケ、動カナクナツタト思ツタラ急ニ、「昭子、ヨカツタネ、足元ニ米袋ガアルヨ。」ナンテイフノダカラ、当然昭子ハ「エツ、ナイジヤナイ。大丈夫。見ヘテル。」ト陽平ノ目ノ前デ手ヲ振ツテ見セル。
頭大丈夫? 
「ア、エ。コレハ誰ノ手ヤロナア。フウン、マダ小サクテ柔ラカイネ。サア、手ヲツナイデ硫黄島ニ直行ダヨ。
ヘヽツ、ヘヘヘ。楽チン楽チン。アヽ、キモチイ。エツヘツヘエヽツハツハアヽ」陽平ハアマリノ苦シサニ頭ガヲカシクナツテシマツタノダ。「チヨツト、何ガ見ヘテルノ!シツカリシテヨ!」昭子ハ心配ノ余リ半泣キニナツテ、陽平ノホツペタヲパチント叩ク。ソレデモ治ラナイ。「イツタイナア。ナンデ急ニタタクンダヤウ。ホラソコニ猫ガイルジヤナイノ。ボクモ触リタイヨ。捕マヘテ来ヒヨ。ホラ早ク」「正気ニ戻ツテ!シツカリシナサイ!」何度モ何度モ叩キマクツタ。ソシテ伍回目デヤウヤクイツモノ陽平ニ戻ツタ。「ン。ア、ヘエ。 ワツ、昭子、ナンデ泣ヒテ」最後マデ言ツテナイノニ。「モウ!普通ナラ最初カラ心配カケナイデヨ!」昭子ハナンダカンダ言ツテ治ツテクレタコトガ嬉シカツタノダ。チヨツトスレバ陽平モ元気ニナツテ、無理ヲスルコトモナクナツタ。懲リタヤウダ。
シカシ、ウツカリアレヲ隠スノヲ忘レテシマツテ、陽平ガチラツト見タ瞬間ニバレテシマツタ。
「昭子、モシカシテ。」「アツ。」「ナンデ早ク言ハナカツタ。」「心配カケタクナ」次ノ瞬間。「バカヤラウ!!」平手ガ飛ンデキタ。「ヲ前ナ、モウチヨツト重傷ダツタラ助カツテナカツタカモシレナインダカラヨ!ソンナ風ニズツトチマく隠サレテ一気ニ不安ニサセラレルコツチノ気持チチヨツトハ考ヘラレヘンノカ!
心配スルンハコツチヤゾ、コラ。」「ゴメンナサイ。」「ホンツマ、コイツハロクデモナイコトバツカシデカスカラ困ツタモンダア。」「破レチヤツテ。」「ドンナンダ、見セテゴラン。」オモムロニ隠スノヲヤメテ、グチヤ〱ニ焦ゲタノヲ丸出シニシタ。「コレハイカン。アヽホラ、バツチイト危ナイデ。コウスリヤダイジヤウブダ。隠スノヤメテ、ハヨ見セタラ良カツタノニ。」陽平ハマダ冷タイ手デ押サヘツケテ、破レタトコロニホカノ布ヲ付ケテ補修シテヤツタ。
面倒見ノイヽ奴ダ。トテモ子供ダトハ思ヘナイネ。
陸丁目 一番地 ノ「タノシイ遠足」
ソシテツイニ集団疎開スルコトニナツタ。
スゴク遠ヒトコロダヨ。ナンデ。コンナノアリヘナイ。色ンナ場所ヲ転々ト逃ゲ回ツテイルウチニ、遠ク西ヘ来テイタ。
陽平タチノ友達モ近クノ子供タチモ、ミインナ電車ヤラ汽車ヤラデ地方ニ行ツテシマツタ。陽平タチモ行ツタ。
男女別ダシ、知ラナイ人ト一緒ニイナイトイケナイシ、人ガイル寂シサダツタ。
食事ハナントカナルケド、当然アノ時ミタイニミンナデ楽シクナンテアリヘナイ。
一斉ニ挨拶スルト、黙々ト済マセル。ソレダケダ。
 いただきます。
ソレニシテモ、慣レナイ疎開生活ハ苦シイモノダ。
甘ヘルナト自分デ思ツタツテ寂シイモノハ寂シイシ、精神ガドン〱弱ツテモツト〱ズボンノ余リ紐ハ長クナツテイクダケダ。
嗚呼、幼ヒアノ頃ヲ思ヒ出ス。ボクガアノ暖カイ胸ニ抱カレテ、優シイ母チヤンノ指ヲ握ツテ、縦笛ノヤウナ笑イ声ヲ上ゲルト、若イ夫婦ハ微笑ンデ、「見テ、笑ツタヨ。」ト喜ブ普通ノ日常。病気デ別レモ言ヘズニ逝ツタ姉貴モ、アノトキハ元気ダツタ。アントキヤオ隣ノ行儀ノヰイ子供ガ、ボクノ世話ヲシテクレタネ。アヽ、アノ人ハオ國ノタメニ頑張リマスト、アノ時行ツテシマツタネ。当初ハカツコヨクテ憧レテイタケド、モウアンナ死ニ方ハシタクナイ。サウ、アノ人ハ行ツテスグ、今ハ言ヘナイケド悲シク死ンダカラ。ボクガ真ツ暗闇デ夜泣キスルト、「ダウシテ泣キ止マナイノ。」トイフ。ソシタラ「元気ナ証拠ジヤナイカ。」ト返事ガ聞コヘタアノ日。イツデモドコデモ宝物ダツタ。アノ頃ニハ戻レナイ、マウ絶対ニ戻ツテコナイ、ミンナ同ジコトナノニ不安ニナル。アヽ、ダウスレバヰインダラウ。コノマヽ悪ヒ方向ニ進ンデイクシカナインダネ モウ消ヘチヤイタイ。
七丁目 一番地 ノ「ソノ日ハ嫌ダトシテモ、誰ニ対シテモ平等ニ同ジヤウニヤツテクルノダ。」
真夏ノ朝早クノコトダツタ。町ノ人タチハ建物ヲ取リ壊シテイタ。
突然、目ノ前ガバツツト光ツテ、大キナ音ガシタ。親戚ハ、影ダケ残シテスツカリ消ヘテシマツタ。正直、生キタ心地ガシナカツタ。
大シタ傷モナク偶然生キテイタ私ハワケガワカラナイマヽ、アタリデ倒レテイル友達ヒトリ〱ニ話シカケナガラ、「妙チャン、花チャン、フミチャン、ダウシテ誰モ返事シテクレナイノ。」ト歩キ回ッテイタ。
ウッカリ誰カノソバニシャガンデ顔ヲノゾイタトキ、私ハ叫ビサウニナッタ。
全員体ノ中ガ丸見ヘデ、グチャ〱ニナッテ死ンデイタ。ヤウヤク目ノ前デ起コッタコトヲ理解シテ、数滴ノ胃液ヲ吐キ出シタ。アタリニ酸ッパイ匂ヒガ広ガッタ。ソレカラ私ハ急ニ怖クナッテ、骨ダケニナツタ大キナ建物ノ下デウズクマツテ助ケヲ待ツテイタ。焦ッテ名前ガ思ヒ出セナイガ、誰カガ来ルヤウナ気ガシテイタ。
シバラク待ツテイタラ、誰カガ全力デ走ツテキタ。「昭子オヽツ!!」私ノ名前ヲ呼ンデイル。
パツ〱ノ短パンニ子供ラシイ声、間違ヒナク陽平ダツタ。
「昭子!昭子!昭子、大丈夫カ!ヤケドシテナイカ。」私ハシテナイトイツテ一緒ニ逃ゲタ。
彼ハアチコチニ怪我ヲシテ、体中ヒドイコトニナッテイタ。オデコカラ大量ノ血ヲダラ〱流シ、片方ノ目ハ潰レ、両膝ハ擦リ向ケテイタ。オ腹ニハ血ガ滲ンデイルシ、左手首ニ関シテハ溶ケタ肌ガ袖ニ張リ付イテ、無理ヤリ剥ガシタ跡サエアツタ。ソレデモ、エツチラオツチラ必死ニ走ツテイル。
會へタダケデ安心シタケド、痛々シクテ直視スルコトガデキナカツタ。ボクダッテコンナトコロ見ラレタクナイ。
ケドチヨツト進ンダトコロデダウシテモ喉ガ渇ヒテ、アラウコトカ放射能デ真ツ黒ナ空カラ降ツテクル液体ヲ飲ンデシマツタ。アノヒトガ、「アホカ!ナニカワカランモノヲ飲ムナ!」ト言ヒナガラアハテヽイルケド、コトゴトク無視シテシマッタ。
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視界ガ焼ケサウナ光ト爆音ノ後、町ガ真ツ赤ニ燃ヘテ、ホトンドノ人ハ焼ケテ消ヘタ。コチコチト刻ンデイタアノ時計ハ八時拾伍分デ止マツタ。学校デ鉄砲ヲ持ッテ訓練シテイタノガトテモ頼リナク思ヘテシマッタ。
ボクハ大怪我シテ血ダラケニナツテシマツタケドカラウジテ生キテイタ。片目ハ見ヘナクナッタシ、オデコカラハ生ヌルイ液体ガ垂レテイタ。息ヲスルタビニ、怪我シタトコロガヒドク痛ンダ。コノマヽデハイケナイト思ツテ外ニ出ヤウトスルト、溶ケタ「人」デハナイ何カガ足ヲツカンデキタ。「ミ、水」
「ゴメンナサイ!」ボクハ、目ヲ潰シタクナルヤウナ光景ヲ無視シテ走リ続ケタ。
影ノ残ル大キナ建物ノ下デ昭子ト合流シタ。「昭子!大丈夫カ!ヤケドシテナイカ。」「シテナイヨ!逃ゲマセウ!」「ヨシ、手ツナイデ!」全身ガラスデメツタ刺シノ元人間ダツテ気ニシナイ、気ニシナイ。
シバラク逃ゲ惑ツテイルト、川ニ内臓ガハミ出シテ人カダウカモワカラナイ、水ヲ飲ンデ息絶ヘタ肉塊ガ大量ニ浮カンデイルノヲ見ツケタ。死ンダ子ヲ抱イテ発狂シテル女ヤ、腕ヲドロ〱ニシテ這ヒズリ回ツテイル人ガ見ルニ堪ヘナカツタ。川岸デ頭ヲ突ツ込ンダマヽ焼ケ死ンデル人トカ見テモ、怖ガル暇モナカツタ。「アツイヨ。」ケロイドダラケノ人ヲ押シノケテタダ〱逃ゲ続ケタ。歩調ガ合ハナクテシヨツテウコケナガラモ逃ゲ惑フ。アノ日ヲ思ヒ出ス。
ソノトキ遠ヒ空カラ真ツ黒ナ雨ガ降ツタ。ボクハ思ハズ一人ニナツテ逃ゲテシマツタガ、昭子ハ頑ナニツイテコナカツタ。モウチヨツトデ安全ナ街ニ着クノニ。呼ンデモ呼ンデモタヾ死ンダ目デ上ヲ向ヒテ、
「喉乾ヒタ。オナカスイタヨ。」トツブヤクダケダツタ。雨ヲ飲ンデイタ。ソンナコトヲスルクライダツタラ醤油ヲ飲ンダラヨカツタノニ。道中、何カニ押シ寄セル群衆ヲ見ツケタ。チヨツト中ヲ覗ヒテミルトソコニハボロ〱デマウ明ラカニ息ガナイ外国人ガ倒レテイタ。ソシテ、周リノ人達ハ「息子ヲ返シテ!」「ヲ前ミタイナ奴ナンテ、全員殺シテヤル!」ナドト、木ノ棒デ刺シタリ踏ンダリシテ虐殺シテイタ。ボクタチハ何モデキナカッタ。命ガアツタハズノ一人ノ人間ヲ目ノ敵ニシテイルノヲ見タツテ、ダウセコンナコトニナツタノハアイツノセイダト思ツテ、小サク砕ケタ瓦礫ノ破片ヲ投ゲツケタ。隣ノアノ子ハ、真ツ黒ニナリナガラモ石ヲ投ゲタ。
七丁目 弐番地 ノ「ヒドイヨヒドイヨ、ボクノ唯一ノ家族ガ死ンジヤウナンテ、アンマリダヨウ。」
ナントカシテ無事ダツタ町ニ辿リ着ヒタ。無事ダツタトイフカ、立チ直ツテキタ町トイフノガ正シイカモシレナイ。
デモ放射能ヲ浴ビタ昭子ノ体ハアチコチ焼ケタダレテソレハモウ痛々シイコトニナツテイタ。
放射能ノ雲ガ空ヲ覆ッタ、凍リ付ヒタ夜モフタリデ身ヲ寄セ合ツテ過ゴシタ。
ソノウチ、髪ガ抜ケルヨリモ先ニ、ボロ〱ノ昭子ハ食ベルモノモ飲ムモノモナクテ「ナニカ、チヤウダイ。」ト心配サウニ覗キ込ム陽平ノ手ヲ握ツテ、ソレカラ、ソレカラ。昭子ハ苦シサウニ、「ナシテコンナエライ思ヒセントイカンノ。」ト陽平ヲ見ツメナガラポツント呟ヒタ。アマリニ悲シイ言葉ヲ聞ヒタ陽平ハ、黙リ込ンダ。
「強ヒ大人ダケデ喧嘩シタラエヽヤナイノ。」人間同士カ。
「死ヌマデ離レントイテネ。サビシクシナイデネ。」モウ先ハ長クナイコトナンテ誰デモワカル。ソンナ声ダ。ナグラレタトキノ声ミタイ。ガリ〱ノ昭子ニ見カネタ陽平ガ縫イ付ケラレタポケツトヲホドイテ出テキタホンノ親指クライノ小サナキヤラメルヲ昭子ノ口ニ入レテヤルト、「イヽノデスカ。私ナンテモウ長クナイノニ、アナタガ生キ残ラナクテヰイノデスカ。ヲ腹減ツタデセウ。」トカスレタ声デ言ツテキタ。陽平ハ喉ガ縮ンデ何モ言ヘズニ泣キサウナ顔シテ首ヲ横ニ振ルコトシカデキナカツタ。陽平ハアトマウ弐ツ、キヤラメルヲ渡シタ。
ソシテ、昭子ハ一ツダケ食ベテ、「イラナイ。」ト返シタ。残リノ弐ツヲ焼ケタダレタ手ニ握ツタマンマ。
ヤツト出テキタ言葉ハ、「バカヤラウ、ヲ前ガ死ンダラボクハ誰ト生キレバイヽンダヨ。」
ソレニ対シテ昭子ハ「モウ、イイデセウ。アタシ、ガンバツタノヨ。」
「ヲ、ソウダナ。悪カツタナ。悪カツタ、ナ。」
「デモネ、アリガタウ。美味シイヨ。   アノネ。」
 もらってくれない
昭子ハイロンナコトヲ思ヒ出シタ。出会ツタトキノコトカラ、今ニ至ルマデ。ソシテ、チツトモ偽リノナイヒトコト。「アノネ、大好キ。」最期ノ笑顔ヲ見タ。「ウレシイ、アリガタウ」陽平ハ、昭子ニ対シテ、寂シク笑ツタ。哀シクテ、フル〱ト震ヘタ。ソレヲ見テ、「寒ヒノカシラ。私ガアナタヲアツタメルヨ。」ト大人シク言ツタ。
「無理シテ話スノヤメトキ。早死ニサレタラ困ルヨ。」「最後ニ、約束シテクレルカシラ。」「アゝ。」「弐度トコンナ死ニ方ヲスル人ガイナイヤウニ、ダウカ、伝ヘテイツテネ。」「ワカツタ。」「小指、出シテ。」「指切ツタ。」「サイナラ。アトネ、日ガ暮レルマデニ帰ツテキテネ。」ソレカラシバラクシタ。モウ、昭子ノ顔ハ溶ケテシマツテイタ。ソンナ死ニカケノ少女ヲ前ニ、泣クノヲコラヘテ崩レタ目デナニヲウツシタダラウ。情ケナイホド垂レ下ガツテ細ク腫レテシマツタ涙目ガ、モウホトンド話ス力モナイ焼ケ焦ゲ人間ヲピカ〱ト映シタ。「アナタ、誰。」「ボクダヨ、陽平ダヨ。」「ハジメマシテ。私、自分ノ名前モ分カラナイノヨ。」「ソンナ、シツカリシロヨ。」「ダウイフコトデス。」「昭子、ダウシテ。」陽平ハ体ガ潰レサウナホド昭子ヲギユウ〱ニ抱キシメテ、「ツイニ忘レチヤツタ、ネ。」トボロ〱泣ヒタ。「ダウシタノ。泣カナイデ。」「思ヒ出シテヨ。」「思ヒ出セナイ。ゴメンナサイ。」「ソンナ、ソンナア。」「離シテ、痛ヒヨ。痛ヒ事シタラダメヨ。」「昭子、昭子オ。ボクノ顔ヲ思ヒ出シテ。頼ムカラ。」顔ヲ昭子ノ懐ニ押シ付ケテ塩辛ヒ涙ヲ流シタ。最後ニ、悟ツタヤウナ顔ヲシテ、「ヲイ、チヨツ。」数分モ耐ヘ切レズニ。
マウ動カナクナツテシマツタヨ。前会ツタ時マデ元気ニ笑ツテイタ昭子ハモウ表情ナンテ消ヘタ。サツキマデ生キテタンダ。サツキマデ暖カカツタンダ。飢ヘテイタ昭子ハ、モウ何モ欲シガラナイ。アゲラレルヤウナ物モナイ。一気ニ静マリ返ツタ。陽平ハモウ吹ツ切レテシマツテ、悲シクモ寂シクモナクツテ、タヾ〱アノトキノ昭子ト同ジ死ンダ目デ弐度ト開クコトノナイ昭子ノ目ヲ一点見ツメテイタ。何ヲ思ツタノカ、陽平ハ昭子ノ頭ヲイジクリマハシテ、ダウセ死ンデルンダカラト服ノ中ニ冷タイ手ヲ突ツ込ンデ体中ヲスリ〱コネクリ回シタリシテドカ〱体ヲ揺ラシテル鼓動ヲ飲ミ込ンデイル。「ハア、ハア。」顔真ツ赤ダヨ、陽平クン。キガクルツテシマツタンダカラコレマタシカタナイ。
「昭子チヤン、ナニシロモウスグ敗戰ダヨ。ハゝ〱!!!」フザケテ元気ニシテルウチニ一人デヲカシクナツテ笑ツタ。「エヘヽ、ハツ〱。昭子、生キトルンナラ返事シテミ。無視ハダメダゾ。ナア、嘘ツテ言ツテクレナイカ。」笑ヘナクナツテシマツタ。スグニ虚シクナツテ落チ込ンダ素振リヲ見セタ。「アア。死ンジヤツタ!アヽ!残念残念!コレハキツト弱虫ボクノセイ!欲シガリマセン勝ツマデハ!ドウセ負ケルカラシカタナイ!天皇陛下万歳!ヨツシヤ!
マアヰイヤ!コレカラハコイツノコトナンテ気ニカケナクテイシ!残サレタ余生ヲ楽シンデ野垂レ死ニスレバイヽンダ自由ナラ!」叫ンデナヲサラ悲シイ作リ笑顔。パアマネント禁止。バンザイ降ロシタ。降伏シタ。影ハ一ノ字ニナツタ。縮ンダ。スベテガ終ハツタヤウナ、守ルモノモ、大事ナモノモナクシタ気持チダツタ。マタアノトキミタイニ真上ヲ見上ゲテ、我慢ヲ殺シテニジミ出テキサウナ涙ヲ吸ヒ込ンダ。ソノウチ「ハアアア。」ト片付イタヤウニ溜息ヲツイテ呆レ返ツタヨナ表情ニナツタ。死ンダ人ミタイナマルデ生キテナイ顔デ下向ヒテル。陽平ハワザワザ泥水ヲ探シニ行ツテ、手ノヒライツパイニ汲ンデ帰ツテキタ。ソシテ泥水ヲ無理ヤリ昭子ニ飲マセヤウトシタケド当然飲メルハズモナク口ノ脇カラボト〱コボシタ。「ホラ、飲メヨ。死ヌゾ、ヲ前。」グリ〱押シ込ムケレドヤツパリ頭ノ下ニ落トスダケダ。口移シデ飲マセヤウトシテ泥水ヲ掬ヒ上ゲタ、ソノ時ダツタ。「チヨツト、何シテルンダヨ。」ダレカニポント肩ヲ触ラレテ、後ロヲ振リ返ルトタマ〱同ジ場所ニ逃ゲテキタ陽平ヨリ参ツ年上ノ友人ガイタ。友人ノ兄ハ特攻隊デマウ散ツテイタ。棺桶ハ戦闘機。「シンダ。コレデ楽ダヨ。 ウン、コノ子マダ生キテルヤ。」ト陽平ガ薄笑ヒシテ震ヘル手デ昭子ノホウヲ指サスト正気ヲ保ツタマヽノ友人ハ膝カラ崩レ落チタ。
 ああ 鬼畜な友達
「陽平、昭子ハモウ」友人ガ昭子ノ額ニ手ヲ当テタトキ、陽平ノ紺ノ手ハ無言デ友人ノカアキ色ノ袖ヲ強ク掴ンダ。
「イツツ。」友人ハ陽平ノ気持チヲ察シテスグニ紫色ノ血ノ止マツタ手ヲ引キ抜ヒタ。
「ジヤ、壊レチヤウ前ニ火葬シナキヤナ。」友人ガサウイツテモ、陽平ニハ何モ聞コヘナカツタ。
「イ イ イ イヤダア!!絶対イヤダ!!」陽平ハ少シ遅クカウ言ツテ、昭子ヲ抱キ上ゲタト思ツタラ川ノハウマデ走ツテ行ツテシマツタ。少シ下ツタトコロニ来タ。ソノトキ前ニスツコロンデ歯ガ一本折レテ、タウ〱心モ一緒ニ折レテ吹ツ切レタヤウニ口カラ血ヲダラ〱垂ラシナガラワア〱泣キ叫ンダ。マウ絶対動カナイ昭子ノ隣デ膝ヲツイテ泣ヒテイル。友人ハ後ロカラ慰メテイル。「アンマリタメ込ムナヨ。我慢シテタラ死ヌゾ。」ト。
流れ星みたいに 絵
 流れ星みたいに 説明
ソレデモ苦シサウナホド息遣ヒガ荒ヒ。泣キハラシタ頬ハ真ツ赤ダ。数分モシナイウチニ陽平ハ昭子ニ突ツ伏シテサツキマデノコトガ嘘ノヤウニスウ〱スヤ〱寝始メタ。マウ疲レ果テテ、ヨク見ルトタクサンノ血管ガ浮キ出シテイルノヲボオツト見テイタガ、ソノウチ何ヲ思ツタノカ、「オイ、ダメダ!チヨツ、陽平、起キロヨ。目ヲ開ケロ。目ヲ開ケロツテバ。」コノマヽデハ危ナイト思ツタカラデアル。デモ全ク返事ヲシナイウエ、絶対離サナイノデハナイカト思フホドキツク昭子ニ抱キ着ヒテイルノデ、ナンダカ申シ訳ナクナツテソノマヽニシテヤルコトニシタ。
友人ハ陽平ノ横ニ座ツテ背中ヲトン〱叩ヒテイル。ソシテズツシリ重クナツタ陽平トスツカリ冷タクナツタ昭子ヲサウツト背負ツテ物陰ニ消ヘテイツタ。ヒトリズツ順番ニ、隣同士ニナルヤウニ並ベテヤツタ。昭子ガ骨ニサレチヤウマデノ間ダケネ。 シバラクシテカラ友人ハ急ニ調子ガ悪クナツテ、力ヲ振リ絞ツテ陽平ノ耳元デ指ヲパチ〱鳴ラシタ。「病院、病院。」声ニビツクリシテ、陽平ハギヤツト飛ビ起キタ。幽霊ミタイナ嗄レ声ダ。
「ドウシタンダヨ!顔真ツ白ジヤナイカ!」陽平ハ裸足ノマンマ友人ノ肩ヲ支ヘテ病院ニ直行シタ。力ガ入ラナクテ、何度モ膝ヲツイタ。ヤツト支ヘタ頃ニハ膝ガイチジクノヤウニ赤ク擦リ切レテイタ。
地面ハ硬クテツメタイカラマア、足ノ裏ガ痛ヒコト。擦リ切レル体液デ足跡テン〱ツケナガラフラ〱病院入ツテク。
ケドモウ間ニ合ハナカツタ。友人ハツギ〱ニ髪ノ毛ガ抜ケテ反吐吐キナガラ星ニナツタ。真ツ赤ニ焼ケ焦ゲタ人型ノ物体ノ隣デ。人ノイナイ夜ナンテチツトモキレイナンカジヤナイ。悲シイ地獄ノ夜ダ。
町ノ隅ニハヒトリポツチノ子供タチガ。向カツテ反対側ニハ、買イ出シ列車ニ幼馴染一行ガシガミツイテイル。
昭子ハ相変ハラズ、陽平ガピイツト指笛吹イテモ当然来ナイ。
アヽ、アノ子ノヤケド跡ニ蛆ガ湧キ始メタ。モウ限界ダ。陽平ハタヾデサヘホトンド何モ食ベラレナクテ飢ヘ死ニ寸前ナノニ、余ツタキヤラメルヲ少シズツチギツテヤセ細ツタ子供タチニアゲ続ケタ。アレヲ渡スコトハ絶対ナカツタケレド。ドンナ小サナカケラ一ツデモ誰モガ大喜ビシテクレタ。陽平本人ハトイフト、トニカク周リニアルスベテノ食ベラレサウナモノヲ片ツ端カラ体ニブチ込ンダ。死ナナケリヤナンデモイヽトイフ覚悟デ探シ続ケタ。
「兄サン、ソンナゴミデエヽノ。アタシ、心配ヨ。」ト言ハレテモ、「死ニヤセンワ、ヘエキヘエキ!」ト割リ切ツテイタ。ソレカラマタ時間ハ無慈悲ニ流レテ、フタリノ抜ケ殻ヲ焼イタ。フタリニ拾伍日ハ来ナカツタ。
火葬スルトコノオヤジノトコロニ、何モ考ヘズ持ッテ行ッタ。ソシタラ色々見始メルンダ。モウ慣レテシマッタカノヤウニ何事モナク「ウン、完全ニコイツァ死ンデルヨ。アツチデ焼ヒテコヒ。」トソツケナク吐キ捨テタ。
死ンダフタリガ運バレテ行ツテ、顔モ知ラナイ男ガ日ノ中ニ放リ込ンダ。ソノトキダケ、勝手ニ触リヤガツテ、トイフ気持チニナツタ。涙ヒトツトコボサズ、泣キ声ヒトツト漏ラサズ、焼キツクハズノ干カラビタ死体ノ炎ガ目ニ焼キ付ヒテシマツタ。「コリャオ前ガ持ツテ帰ルトヱエワ。ン、ナンカ燃ヘ残ツトル。」男ハサウ言ツテ、アノ子ノ灰ノ中カラ得体ノシレナイ塊ヲ取リ出シタ。ソレハ、ドコカシラデアノ子ガ拾ッテ急ヒデ頬張ッタ機銃ノ銃弾ダッタ。ソレトナク受ケ取ツテ、ポケツトノ中ニ隠シタ。コンナモノヲ体ニ入レルホド苦シカツタノカ、ト思フトマウ何モ考ヘレナイホドニ悲シクナツテシマツタ。アノ子ガ手ニ握ツタマヽノキヤラメルハナンダカ一緒ニ焼クノモモツタイナクテ取ツテオイタガ、ナゼカドウシテモコレダケハ食ベルコトガデキナカツタ。ナノデ、昭子ノアノ破レタスカアトノ布ニ包ンデソノマヽ隠シニ入レタ。自分デ取リ出スコトモ、誰カニアゲルコトモナカツタ。ズツトソノマヽ。隠シノ中。
アヽ、コンナニナツチヤツタナ、ト虚シクナツタ。マブシイ、真ツ赤ナ夕日ガ小サナフタリヲ両腕ニ抱ク陽平ノ真ツ黒ナ髪ニ反射シテジリ〱輝ヒタ。ソノ立チ姿ハ限界ヲ感ジルガドコカ力強クテ勇マシカツタ。
デモソノウチ心ガ崩レテキテ、遺骨ヲボト地面ニ落ツコトシナガラホロ〱泣キベソカイタ。ボロツボロニカスリ傷デ濁ツタ顔ヲヒリ〱濡ラシナガラヒン〱ト泣ヒタ。ドコカノ拍子ニ、一気ニ大キナ声デ泣キ出シタ。「ウエエエン、母チヤン、助ケテヨ。」働キ者ノ軍人ガ通リカカツタトキ、陽平ハイキナリ肩ヲバンツト叩カレタ。
「シツカリシロ!ヘナ〱シテンジヤネエ!」薄汚レタ兵士ハ陽平ヲ無理ニピシツト立タセタ瞬間、ボスツト勢ヒヨク陽平ノ腹ヲブン殴ツタ。「痛ヒ!」ソノ場ニ座リ込ンデウズクマツタ。地面ノ真上デ丸マツテ怯ヘテブル〱震ヘテイル陽平ヲグリ〱踏ミツケテイル。デモ後ロニ誰カイル。見覚ヘガアル子供ガイル。コノ間陽平ガ助ケタ子供ダツタ。何カ言ヒタサウニコツチヲ見テ、日兵ノハウニヨチ〱歩ヒテ行ツタ。絶対ダメダ、アノ子マデ巻キ添ヘ喰ラツテシマフ、ト思ツタトキ。「ヤメテアゲテクダサイ。ヲ願ヒシマス。」「ウルサイナ小娘、ヲ前モ殺サレタイカ。」
「違フ、ソノ子ハ」陽平ガサウ言ヒカケルト、ソノ子ハ奴ノ裾ヲ引ツ張ツテ、小サイノニ頑張ツテイル。
「離セ!非國民!」気ヲ取ラレテイル間ニ陽平ハ逃ゲ出シタ。ソシテ後ロニ回リ込ミソノ子ヲ抱ヘテ急イデ隠レタ。
心臓ヲ吐キ出シサウ。動悸ニ耐ヘナガラシバラクノ間小サイ子ヲシツカリ押サヘツケテイタ。
「大丈夫ダカラ、絶対ジイツトシテテネ。見ツカツタラ撃チ殺サレチヤウカモシレナイカラネ。」「ウン。」
大事ナ人ヲ落トシテキタノヲ拾ヒナガラ、暗イ町ノ隅デアノ日ヲ待ツテイタ。
アノ子ハ突然見カケナクナツタ。心配デナラナカツタケドシヤウガナイコトダツタ。
傷ガキリ〱痛ンデモ唇ヲ噛ンデ耐ヘタ。兵士ニ口出シシタ、ダイブ生意気ナ奴ダッタヨ。
モウダメカモシレナイ。傷口ニハウジガ湧イテ、生キテイルノニハエガタカッテイタ。
七丁目 参番地 ノ「天皇陛下万歳」
シバラクソコデ暮ラシテイタトキ、ツイニ殺シ合イガ終ハツタ。聞コヘタノハサイレンデハナク玉音放送ダツタ。
何トモ言ヘナイ気持チダツタ。周リノ人ハ、イロンナ感情ガ混ザツタ表情デタダ天皇ノ声トラジオヲ見ツメテイタ。
「ー堪エ難キヲ堪エ、忍ビ難キヲ忍ビー」ダウシテモ、コヽシカワカラナイ。
聞キ取レナカツタガ、周リノ様子デ気ヅヒテ徐々ニミンナ終ハツタ事ヲ理解シタヤウダッタ。
八丁目 一番地 の「昨日の電車」
そのうち、リリリリ、リリン。ピヤアツ、ガタン、ゴトン。といふ音と共に初めて昭子に出会つたあの場所へ帰つた。
それからまたいくらか時間が経つたが、もうどこを見たつて昭子はいない。
いつも隣でレコオドを聞ひてたあの娘は、隣を見てもいなかつた。何とも言へない寂しさだ。
実は生きているのだと思つて何度見ても、そこにあるのはたくさんの破れた白黒写真だけだつた。
町にいる背の高ひ金髪が怖くてたまらない。あの人たちは何も悪くない、毒きのこが悪ひのに。
人が殺されるだけじやない、一生心が引き裂かれた跡が残るんだよ。
母ちゃんは見ている 絵
泣きながら夢を見た。 説明
幼馴染は、まだ生きてるよ。この間玖州に引つ越したよ。
近所の若者は仲間と一緒に自決したつて。優しい人で、隣人にも親切だつたんだ。その人の姉は、泣いて悲しんでいたよ。実は父ちやんも戰場にいつてて、敵が自決した若者の体を打ちぬいた銃を取り上げて煽つているのを偶然見つけてそいつを倒したけど自決した仲間は誰ひとり息がなかつたらしい。信じられないけどそのあと父ちやんは生きて帰つてきた。数年ぶりに心から安心できた時だつた。
当時のものもちやんと持ち帰つてきた。召集されて列車に連れ去られていくところを見ていたけど、引き留める気はなかつた。いじめてきた例のあいつは空襲で死んだ。清々した心がをかしいやうに思へてきた。これが、白黒写真の中身で起こつた鮮明な出来事。
八丁目 弐番地 の「宝物はいつまでも」
あゝ、はあ、まだ実家には幼ひころの宝物はちやんと残つていて、だけどそん中の、ぼくが大好きな、大事な大事なテイチクレコオドは何回も何回も聞ひていたから音が飛び飛びにしか聞こへなくなつてしまつたんだ。でも壊れたレコオドは宝物だからこその証なんだね、ほらもう盤面は傷だらけだ。思ひ出と同時に、悲しい記憶も思ひ出す。大事なふたりが消へてしまつたあの夜のことだ。んもう、夜なんてだいつきらい!弐度と顔見せるんじやない。さういへば母ちやんには死んだ人の知らせ紙は届ひたんかな。実親じやないし。その日家に帰るとぼくとあの子の墓ができていた。
帰るのが遅くなつてしまつて、死んだことにされたのだらう。質素な墓の前には、ぼくとあの子の大切にしていたものがいつしよくたになつて置ひてある。ぼくはあの子がいつも持つてたブリキ弁当箱を、赤ん坊を抱くやうに拾ひ上げた。なんだか死んでしまつた直後のあの子を抱き上げているやうで、目を細めてしまつた。さうだよこれは正真正銘あいつの遺していつた残骸なんだよ。なんでなんだよ、どうして、亡骸よりも重ひんだらう。雨を浴びたやうだつた。
ぼくが勇気を出して、「ぼくは死んでないよ。」と言ひながらさみしい焼け跡の上の廃材で弱弱しく組み立てられた小屋の戸を開けると、母ちやんは、「まあ こんなにぼろ〱になつて。生きてたのね。怖かつたでせう。」
とぼくを抱きしめた。実際ぼくは傷だらけだつたし、かなり弱つてた。そしてぼくもまた、墓を作つたときの気持ちがどんなだつただらうなんて考へて、なんだか怖くなつて、悲しくなつて、寂しくなつて、不安になつてしまつた。なんだか、こうしてかへつてこれば「あつ、おかへり!」とあの子が走つて出迎へてくれるとでも思つたやうだ。
この馬鹿な頭はさう思つたらしい。やつぱりもう會へなくて、「まあさうだよな、そんなわけない、よな。」と無理やり考へるのをやめた。ありへなかった。あのときあんなに泣ひたのにいまだにあいつらが死んだのが信じられなかつた。流石にもう認めたらいいのに。つんつるてんになるはずだつた古ひ袖も、栄養失調であのときのまゝ止まっていた。
落ち着ひた後、こう話し始めた。「昭子ちやんはどこ行つちやつたの。」ぼくが目に涙を溜めて「うゝん。分かんない。」と言ふと、なんだか悲しくなつて、ぼくは泣きだす。「生きてすらないよ。ぼくだけを一人置き去りにして消へたんだよ。あんまりだ。気持ちも伝へられないまゝ弐度と會へだいだんて。」うまく話せない。喉の奥が震へてろれつが回らない。「そんな悲しさうな顔してないで、こつちにをいで。」その言葉を聞ひて、反射的に駆け寄つていく。
「うわあゝ!!!」こんな間抜けな声上げて泣き崩れる。たまつていたものつていふか、さういふものが全部あふれ出した。包み込むやうに握りしめた写真が破れるほど押さへつけている。ぼくが母ちやんの膝の上で項垂れて泣ひてるから、ぽろ〱音を立てて膝が濡れる。最後のはうなんて、涙すら出てこなくなる。雷のやうな泣き声だつてじき〱枯れてくる。喉から血がにじみ出てくる。痛ひのに泣き止まない。肺が痙攣しててしやつくりばつかり出ちやうせいで息が吸えなくても涙は止まらない。声が辺り一帯に響き渡つて、野次馬が窓越しになんだ〱といふ顔で覗ひてくる。
隣人のをつさんは感じ悪ひ奴で、「隣のガキがうるせえんだよ!」と言つている。それを聞ひて、「をいやめろよ。」と面白半分に冗談言つて笑つてる連中もいたけどそれではなぜか余計にぼくの声はぎやあ〱大きくなるだけである。
肺が潰れそうで苦しくて、何を言つているのかわからないことを延々と口走る。「あつ!!ぼくがあうべのばへで見つ、見でだのにいふあつ!あつ、あ、だ、なんにもでき、できながあだ。ぼどつつでえ!じだだへでよ!!!うぐあつ、あん!」ぼくがどんなにがんばつて叫んでもどれほど泣ひているのか誰にも伝はらない。きつと君はこんな泣き方するぼくがをかしくて鼻で笑つてるんでせう。変な奴だと思つてるでせう。だつて外から見てるやつがくすくす笑つてるもん。
数時間もの間待つていると、力尽きるとともに落ち着ひていつた。「ぐす、ぐすつ。ひつく、をえつ。」自分が弱ひ気がしてきて、くやしくてまたぐずりだす。けど涙一滴垂れただけですぐ元に戻つた。泣くな情弱なんて、もう誰にも言はれない。泣き疲れて眠たくなつてきたとき、母ちやんはたゞ〱背中をさすつたり軽く叩ひたりしてたのに気が付ひた。何も言はなかつた。目は悲しさうだつた。「ぐずつ、うつぐ、くすすうつ。」もうこゝが母ちやんの膝の上かも、北向きかも分からない、夢と現実の堺を行つたり来たり。ぼくは野次馬なんて忘れてうつら〱。そして使ひ古された布はただの糸くずになつ剥がれ落ちる。体中が重くなつてがくつと倒れたとき、隠しからあのとき昭子にあげやうと思つて先に逝かれたキヤラメルがぼと〱つとこぼれ落ちた。糸くずだらけの思ひ出。速度を落とした心臓の音と耳の脈だけがぼんやり聞こへる。完全に力が抜けてる手はじんわり温かく、母ちやんの裾を掴んで握つたりはしてない。床で潰れるやうにそこにあるだけだ。前のやうに元気にはなれないだらう。黒電話が鳴つても体はぐつたり動かない。耳も頭も無視してる。「あゝあ、動かなくなつちまつたよ。体力のない男だ。」「もう疲れちやつたのかあ。をやすみ、あんちやん。」「チツ、俺は明日からまた忙しいのにこいつはぐうたらしてるとか。これだから最近のガキは。」
野次馬が去つていくのを細目で見て、つらくて「うんつ。」と小さく唸つた後はなぜだか安心して全身の力が抜けていつた。そのとき母ちやんはあの時の布切れを掛けてくれた。部屋は静まり返つた。何かを思ひ出して、「ひぐつ、母ちやん、やつて。」とだけ言つたが、何を言ふか忘れてしまつた。昭子は戻つてくるわけじやないし、泣き寝入りが悔しくて仕方なかつたけど自然任せに目を閉じるしかなかつた。だつてぼくにはどうしやうもないんだから。じやね、をやすみ。その日は久しぶりに、幾年振りだらうか、その辺のごみ以外のものを食べることができた。
茶碗そのものにかぶりつくやうに、歓声を漏らしながら一杯の米を頬張つた。でもなぜか感覚がなかつた。写真がなくなつていた。で、キヤラメルはあとで拾つて遺骨を入れてた小さい箱に一緒に入れておく。糸くずも同じやうに。
内心こんなことしていゝのかと思ひながらやつているので、手が震へて箱を落としてしまう。「うわ、やつちまつた、だうしやう」とか思ひながら申し訳なさいつぱいで再び片付ける。「ごめんなさい。」と独り言をいつて箱を覗き込んだときに、涙も一緒に納めた。キヤラメルは涙で溶け始めて、やがてどろ〱と周りのものにこびりついた。
ぼくはそんなことも気にせず、墓穴を掘るのであった。
やつたね、これであの世でもおなかすかないね。
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泣きながら夢を見た。 説明
おまけ 拾年後のおはなし
街はずれ 北の川「平和の家族」
ぼくらの國は平和になつた。もう飛行機に怖がることも、人を傷つけなきやいけないこともない。
家出妹をなくしたぼくと同じで、両親をなくした女の人と一緒に生きることにした。佳子さんといふ人だ。
本当に気の合ふ譲さんで、ぼくがあの話をすると一緒に悲しんでくれるし、どんなことでも嫌がらずに協力する聖人の女だ。帰りの線で出会つた人だ。隣の席で悲しそうにしてて、気になつたから「どうしたの。」と話しかけると、少し間をおいて、「あのね。」と話し出した。ぼくが「はつ。」と続きを促すと、「家族みんないなくなつちやつた。これからどうしたらいゝの。」と話した。そのあともうまく話せないみたいでよく聞き取れなかつたが、黙つて聞いた。
「うん。」とりあへず返事をすると、「ごめんね、あなただつて今まで怖くて苦しい思ひをしてきたはずなのに私ばつかりぐだ〱してて嫌よね。」と目を伏せて言つた。その子がどこに行くのかわからなくて心配だつたけど、その日は別れることにした。「あの、長話を聞いてくれてありがたう。ちよつとだけすつきりしたわ。(さういへば、あのときはありがたう。)」「こつちこそ、話してくれてありがとね。ほんじや、失敬。ご機嫌やう。」
その子は何度も振り向きながらどこかへ帰つていつた。ぼくはただなんとなく、小さく見えなくなるまで分かれ道で突つ立つていた。
数年後、ぼくらはお見合ひで再会した。あのときを思ひ出してすぐ仲良くなつて、親戚に病気がないかなど確認し家族になつた。八月拾伍日だつた。
街はずれ 南の山「ちつちやな命」
うちには双子の子供が弐人いる。あれから伍年後に生まれた。あの子とおんなじ、光沢のある真つ黒な目をしていて、きれいな黒髪の。をとさん遊んで、つて無邪気に笑つてるこの子たちを絶対幸せにしてやるつて思つたよ。
たゞ、今の世の中は果たして本当に平和になつたといふのか。便利になりすぎた社会が人の心を壊して、悪ふざけする奴であふれかへつている。きつと、弐拾一世紀にもなるころにはまた言葉で人が人を傷つけあふひどい時代になつてるだらうな。まだやり直せる君たちは、悪ひものをかつこいいだなんて冗談でも思わないやうに。悪ひものは悪ひもの。さう思へ。とにかく、真面目に精いつぱい生きてほしい。じやないと、いつか自分自身を苦しめるからね。
街はずれ 東の海「別れは突然に」
でもぼくはそれからある日大量の血を吐ひて体中真つ赤に染めながら死んでいつた。ぼくが消へてしまつたのは子供が陸歳の時だつた。短い人生だつた。ごめんねみんな。取り残しちやつてごめんね。
ちやうどふたりは出かけてるときだつたね。母さんは仕事、あの子は外遊び。双子の弟の息子だけが家に残つてたけど別の部屋にいたから結局助からなかつた。といふより、いつからか吐血するやうになつて、ついに今事切れてしまつたといつた方が良ひのか。
だから、あいつらも知ってた。けどおかへりの返事もなかったのでそりゃあおかしく思ふだらう。
辺り一面血の海にしてぐつたり倒れてるぼくを最初に見つけたのは息子だつた。でももうそのときはすでに、静かに目をつむつて死んでいた。異変に気付いたあの子はぼくの死体に駆け寄つてきた。明らかにおかしいと思つたのかすごい勢いで走つてきたけど、まだ小さい息子は状況を理解できずに、障子を開けた瞬間つんときた血生臭い空気に固まつてしまつた。しばらくびつくりしたやうな顔でじいつと見つめてから、急に喉と鼓膜が破れさうなほど大声を張り上げてぎやんく泣き出した。「をとさん、をとさん!しつかりして!をとさん。」抜け殻だから何も話せない。子供が目の前で泣きじやくつてるのなんて見てられない。そのうちあれだ、その、姉を連れてきてどこかに行つたと思つたらおかんを呼んできたんだ。
 熱くないの?
あの子はぼくが死んでしまつたのを理解して、横たわるぼくの体にすがりついて涙をながした。子供二人の声がぴいぴいと頭の中をこだました。落とした涙が血と混じつてぐるぐるなびく。最期のおまけをもらつたぼくは「ごめ、ん。」とだけ言つた。それから徐々に目を閉じていつた。「いやだ!死んじやだめ!死んじやだめ!!」それでもぼくはぴくりともしない。大人になつたところを見てやれなくてごめんね。昭子とぼくのぶんまで楽しく生きてほしい。
そしてぼくは頬を撫でる雫に看取られながら死んだ。どこかに連れていかれるとき、あの子たちはこつちをずっと追いかけて泣き叫んでいた。いくらかしばらくして、真つ黒ひ箱で埋もれてしまつた。もう、霊柩電車つて走つてないんだ。そのとき、誰かが「日本人やつつけたぞ。」と馬鹿笑ひした。こんなちっぽけな人間一人ごときで騒ぎやがってよ。死んだ子はぼくのことを、「ああ、死んじやつた。」と悲しさうに上から見下ろした。その次の日にも、新しく生まれる子供だっていたよ。ああ、いってらっしゃい。
あの人がいなくなつたら私は弐人の子供だつているのにどうすればいゝんだらう。
娘にたまに聞かれるの。「どこ行つちやつたの。お父さん帰つてこないの。」私は、「そのうち帰つてくるよ。を仕事行つちやつただけなの。」つて答へるけど「私、しつてるの。を父さん、死んじやつてるから帰つてこれないんでせう。」つて悲しさうに言つてくる。しやうがないじやない。横から息子が「なんでお父ちやんは死んじまつたん。どうして。」つて。悲しくなるんだから、もうこの話やめやうよ。「爆弾。それで病気だつたから。」そんなことしか言へない。まだ、まだこの歳では教へてあげられない。だから、あと四年待つていてほしい。
街はずれ 西の森「を久しぶりね」
ぼくは悲しいあの時を繰り返している。気づいたらまた畑を荒らして、昭子と一緒に逃げている。気づいたときには、ぼくもあの子も息をしなくなつていた。ぼくたちが死んだ橋の下には人がいつぱい集まつてきたけど、かたづけやうとしたらぼくと昭子の生きていたころの入れ物は跡形もなく消へてしまつた。ぼくは何度飢え死にすりやあいゝんだらう。これで伍拾回目。いくつ命があつても足りない。おなかすいたあ。でもまた昭子を探しに行つてやらなくちや。きつと今頃ひとりでさみしいだらうから。んだもんで、ぼくは戰前に見た懐かしいあの町を彷徨つた。西を見ると、昔通ってた尋常小学校。東には、あの子とよく行った思ひ出の公園。今はもうない駅の伝言板に、「昭子へ 陸時に行くよ 待つててね そいじあみなさんさよなら。 陽平より」とすつかりきれいになつた字で書いた。チョークが折れたので、急ひで家に帰つた。あゝ、人なんていないはずなのに、改札に立つて切符を切つている人が見へる見へる。家には誰もいなかつた。たゞぼろい木の窓から、橙色の光の帯がぽかくと家の中を照らしているだけだつた。誰もいない部屋に米を研ぐ音だけが夢の中みたいに響いてる。あ、これは開戰前夜の晩飯のにをいだ。涙が出ちやう。こんなにも懐かしい。
頭のはうからは、空襲が来たあの日みんなが喜んだ焼けた家畜のにをいがしてくる。きつと焼き芋だつてあるやろなあ。悲しいけれど、安心した。しばらく行つてみると、顔見知りのどこかの娘さんの勤めていた陸軍造兵廠があつて、タイプライターを打つ音が聞こへてきた。その次、子供たちと住んでいたあの家に行った。嗚呼さうか、ぼくこゝで死んだんだ。床板にどす黒ひしみができていた。玄関の入り口のはうを見つめていると、ぼうつと昭子が見へてきた。悲しさうに立つているだけなので、「昭子、入つて来んしやい。そこでずつと立つてても退屈だらう。」と手招きした。 

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「また会へたね。なんにも変はつてないね。ずつとずつと、だあいすき。」つて、飛びついてきた。
ぼくは久しぶりに、苦しいほどぎゆつと抱きしめた。何度離れたつて、絶対どこかで会へるもんだ。
あの人はあのときの姿から変わつてなくて、昔はぼくよりちよつと背が高かつたのにずいぶん小さくなつちやつて。いや、小さく見へちやつて。ぼくが「小さくなつたね」といふと、「をつかし!あなたが成長したんだ、きつと。」と笑つていつた。爆撃機のせいですつかり消へたあの公園に行つて、「見て見て、久しぶりにこんなきれいな空を見たよ。」ぼくは青く澄んだり夕日で赤くなつたりする昭子の真上をゆびさして、につこり笑つた。「さうね。私、きのこ雲の空を見ながら死んだものね。あなたがあのとき走つてきてくれて、見つけてくれた、つて気持ちでいつぱいだつたよ。」と、昭子も一緒に空を見上げて言つた。あれによつて町は変はつてしまつたね。あの世では、誰も見てないと思つたのに、どこかしらから友人が見に来て、「すごおい!お前ら結ばれたんかあ!」と大声でこつちを指さして言ふもんだから、ぼくは「ちげえよ!!」つて返したんだけど、「どへえつ!!昭子野郎の彼氏だつて!わいにも見せろ!」と昭子をいじめてたあいつが走つてきてしまつた。友人は茫然としているが、いじめつ子はデリカシーのない奴で、「よつ、新婚さん!百年経つても別れるなよ!」と囃し立ててくる。「あつち行け、しつしつ。」ぼくは弐人をその場から追ひ出していつまでも昭子と思ひ出話をした。思ひ出を、星の数くらいある思ひ出を、夜になつた空に浮かぶ星が尽きるまで、いつまでもいつまでも。うれしい。ぼくたちはやつと夢から抜け出したんだね。それから、ぼくと昭子は幽霊電車に召集されてあの人の世界に還つたよ。土に還つたんだ。ようやく地面と切り離された、子供に戻つた幽霊だ。そのあとぼくは、前の家のほうに昭子を連れて行つた。もちろんあいつは嫌がつた。「またあそこに行くなんて、死んでも嫌だわ。よしなさい。」と言はれても、ぼくはもう何も思はなくなつていた。じやあ、なんでこんなことしたか分かるかね。
わけっこ 絵
わけっこ 説明

陽平は、戦後になっても放射能に苦しめられ、子どもたちが生まれた頃には吐血がひどくなつてしまつた。
それを機に、まだ小さい娘たちを心配させないようにと、見られない部屋で隠れているうちに寝たきりになってしまった。

ああ、もうこの命も長くはない。
を前たち、人に向かつて死んでしまへなんぞ絶対に言ふべきでない。人の命は使ひ捨てではない。冗談でも、軽率に死ねなどという言葉を使ふな。独裁者じやなんだら言ふな。他人を恨むな。自分も恨むな。わかつたね。
相手がどんな悪ひことをしても、存在を否定することだけは絶対にやめとけ。
相手だつて、いや、誰だつて、誰かの大切な子供であり、孫であり、大昔に生まれた生物の子孫でもある。もしかしたら誰かの親なのかもしれない。少なくとも、世界のどこかの誰かにとって大切な人であることに間違ひない。わるふざけはなおさら。
みんなが元気に笑って、幸せに生きてるんだったらそりゃあぼかぁ嬉しいよ。
だれも夜ふかししないように。
真面目に健全に生きなさい。これは命令である。
      陽平の遺書
ああ、あの人はよく言つたなあ。
子供が喧嘩して、息子が娘に向かって「畜生!を前なんか死んじまへ!」と積み木を投げたとき。
「てめえ今なんつったか!どこでそんな野蛮な言葉を覚へてきたんや!あほたれが!!!」
と怒鳴りつけた。そしてこれ以上争はないようにすぐ場所を変へた。あの人は決して暴力を使うことはなかつた。
けど、息子を連れ出してビシッと立たせたあと、喉が千切れそうになるほど叱つた。
息子はあんまり怖そうに、大声を出すたびにビクッと震へながら、「ごめんなさい…」と泣きながら謝るので、あの人の腕を掴んで「お父さん、もうやめなさい。きつともう分かってるは。」と私は説得した。
「もうあんなこと言ふなよ。絶対な。」反省していると分かつて、さつきより幾分も優しい声で、しやがみながら言つた。息子はなんでかわからないが大泣きした。あの人は「きつく言つてすまんな。でもな、父ちやんはお前に汚ひ言葉を使はせたくなかつたのは分かつといてな。」と、泣き崩れるあの子を抱き上げた。しかし、そんな生活は長くはなかったのね。あの人は寝たきりになったあと、何もできないもんだからどん〱弱っていった。子供に見られないように物置部屋に隠れては、咳をするようにがぷ〱血を吐いていた。子どもたちが帰ってくる頃には私が全部血を拭ひて、部屋をきれいにしていた。部屋がきれいなときだけ、物心つかないあの子達には「ちょっと調子悪いのよ。」とだけ伝へて会はせていた。「お父さん、大丈夫?元気になるといいね!」なんていう言葉が胸に突き刺さった。あの人はむりやり、心配するなと言い続けていたのが、見ててつらかった。これでもかなり生き長らえてるはうだつた。そして、苦しさうにすると、すぐに子供を部屋から出す。千玖百陸拾陸年のことだった。
私が仕事から帰る途中、息子が何度も転んだのか傷だらけになりながらよたくと走ってきた。
話せないほどぎゃん〱泣ひていて、どうしたのと聞いても何も言へないみたいなので「はやく何があったのか言ひなさい!」と焦っていた。「来て!来て!!!」とぼろぼろぼろぼろ叫ぶので連れられてきたら家に着いた。
「お父ちゃんが、あああ…!!!返事しないい!!」部屋は今までにないほどびちゃ〱になっていて、鼻を突き刺すような鉄臭ひ匂ひが漂っていた。そこに娘まで帰ってきた。弐人の泣き叫ぶ声が耳から耳へと突き抜けた。
急いで救急車を呼んだ。こんなときに何も気にしてられない。命が、割れた。ついに、事切れた。もう弐度とあの優しい声は聞けない。帰り道、疲れ切った子供たちをなんとか抱いて、家に帰った。着く頃には体力限界。それでも、あの人の遺したものを片付ける。一番行きたくなかったあの部屋の片付けをしたとき、敷き布団の下に紙が挟まっていた。
動かない手でがんばって書いたのよね、ガタガタの文字を見るだけで壊れそうになる。またまた、上に戻ってしまった。


何年か前、お父さんはいなくなってしまった。
三日間何も食べられなくて、本当にそれぐらい悲しんでいました。その夜のきりきりという虫の声は耳に焼き付いて離れなかった。街中で親子を見つけたりするたびに親がひとりいないことに寂しくなります。
今朝もテレビを見ていたら楽しそうな家族の笑い声が聞こえてきました。嫉妬なんかとは全然違くて、羨ましかったので無意識に涙がこぼれてしまいました。さかだちのうたと合唱するように小さくすすり泣く声が部屋に響きました。
 
そして私は、戰争でたくさんの人、いろんな人の大切な家族が失われたことを忘れません。
二度と繰り返してはいけないし、これからも私たちが争わないように訴えていくしかないのです。
続編 子供たちのその後
ここから追記だヨ!一部の人集合!想像したいっていう人は見なくていいよ。
そして十歳のとき。さっきの文章から一年。(数え間違えがなければ千九百七十年)
いま周りにはいろんなものがあって、あの状況からここまできたのが衝撃でした。
台風もあったけど平気だよ。お父さんのボロボロの制服に顔を押し付けた時のかすかな残り香はまだ手放せないけれど。お父さんがよく吸っていた、「今日も元気だ、タバコがうまい。」でおなじみの、いこいの吸い殻。
二番目に好きだったかなぁ、ショートピースの缶だって残っている。
でも私はここに生まれて嬉しかった。ある日私がおつかいの帰りに坂を歩いてたら遊びに行ってた弟がいたから声をかけたの。最近、空き地に行っては友達とエアガンでパンパン撃ってはしゃぎ回っているようだ。なんか、弟の友達のところでは流行ってるっぽい。「あっ、姉ちゃん。」いつも通り返事をする。せっかくだから、そのまま親戚の家に寄ってから一緒に帰ることにした。玄関前にはボロボロの靴が無造作に置かれている。戸を開けて中に入ると、あのレコード流しながら祖父母が一緒に白黒テレビを見ている。部屋の角の棚に、厚くて重い、ボロボロのアルバムを見つけて「これなに?」と聞いてみる。「それはね…」祖母は、アルバムを手に取るとゆっくり思い出したことを話した。
「戰前の写真。私の息子、というかあなたのお父さんは、今から三十年くらい前に爆弾が落とされたときに捨てられた女の子を守っていたのに、その子は飢え死にしちゃってね、しばらくしてからあの子も病気でなくなってしまったのよ。」アルバムのページには埃がかぶった笑顔の家族写真が見える。ちょっと暗くなっちゃって、急いで帰ってたらネクタイを頭に巻いて得体のしれないお土産をぶら下げたおっさんが話しかけてきた。「んはぁぁ…嬢ちゃんたち、一緒に飲みにいかん~??」なんかこわくなって後ろに引き下がったら、弟は「うわー!変な奴―!」と男の急所を狙撃した。どれだけ痛いかって、私には分からない。「きゃあーーーーー」女みたいな情けない声出して座り込んだ。たばこくさいなー子の人。で弟は自慢げに酔いつぶれたおっさんにつばきを飛ばした。「けっ、どんなもんだ。」いや、さすがにやりすぎやろ…映画館とか駅とかの痰壺だったらまだしも、ねえ…
 
で、酔っ払いは放置して家に帰った。
晩飯のとき、考えた。お母さんに聞くことはなかった。悲しいのが怖かったから。
真夜中ひとりで考えた。時計を見るのがつらくて、でもなんだか寂しくて。
寂しくならないようにって、いなくなっちゃう少し前にもらった写真は濡れてしまった。
私はそれがどうしようもなく悔しくて、衝動的に街はずれの野原に出た。
空に輝く星空を見ながら、どこかにいないかと探してる。いまだに兵隊さんの後ろ姿は死んだまま心の中で守りたかった海を見つめてる。
「姉ちゃん。」今にも泣きだしそうな弟の声でびくっとした。私の肩に後ろからしがみついてる。
「こんな真夜中に、置き去りにしてどこいくんだよ…」よく見れば傷だらけで、どろんこで服が汚れていた。
「どうしたの。お母さん居るでしょう。怖いの?」私はこっちこそ不安になって、手をつかんで引き寄せた。
「お母ちゃんいないよ。」予想外の発言だった。 
もしかしたらって思って家のちょっと近くにある墓地に、弟を連れて行ってみた。
そうしたらやっぱりいて、怒られそうだったから急いで帰った。
そして薬品棚みたいなでっかい棚の引き出しから手拭きを取り出して、肩の刺し傷と膝の擦り傷と脛の切り傷をぽんぽんぬぐってやると「あんがと。」だけ言って廊下に出ていった。心なしか悲しんでいるようにも見える背中だった。
そして目をこすりながらいつもの部屋の戸をガラッと開けて足を引っかけそうになって敷居を踏んでいる。
ちょっと様子がおかしいので、私は話を聞きたくなって駆け寄っていった。すると勢いよく戸を閉めて、ものすごい力であかないように抑えてきた。「開けてよ。」私がそういうと、「だめ。今はだめ。」と震えた声で言った。
やっぱり弟は戸に寄りかかって静かに泣いてる。恥ずかしくなんてないのに…ついイライラして「私も入りたいの。」と無理やり開けてしまった。「見ちゃった。ひどい」いろんな意味だろう。ちっちゃい声で弟がつぶやいた。
そのときわけがわからなくて「変なこと言わないで。」と言い返したら、「姉ちゃんばか!ばーーーーーーか!!」と叫んで走って部屋から出て行ってしまった。謎にけんか腰になったことを後悔した。もうこれ以上嫌がらせるのはやめた。次の日。彼はけろっとして得意のスライド笛を吹いている。「お父ちゃんがくれたんだよ。」とまだ生きていた頃嬉しそうに言っていたあの笛。大好きな曲を吹いているぴゅーっ、ぽわーん、という音の後ろからお母さんの声が聞こえてきた。「ごはんできたよー」部屋に戻るとき、私は気になったから弟に聞いてみた。「昨日どこに行ったの?」すると「廊下。」と即答した。「寒くなかった?」と聞くと、「むしろ涼しくてちょうどよかった」と答えた。戸を開けようとすると電話が鳴った。「はい、もしもし。」お母さんが受話器を取る。だれか、知らない人の声。音質がえらく悪い。電話相手はどこにいるんだろう。落ち着きがないみたい。人の声だと思っていたのがどんどんそうには聞こえなくなってきて、しばらくするとそれがただのノイズだということに気が付いた。「用もないのに電話かけるなんて。」文句を言いながら切る音が聞こえた。「今日は味噌汁だよ。」机の上に二つ茶碗が置かれた。「あれっ、お母さんはいらないの?」そう聞くと「いいよ。もうあんまりないから、ふたりに全部あげる。」と言った。
そしてしばらくしたあと、弟は薄汚れた自転車を出しながら、「ちょっと今日は気分がかわって…」とそっちを見ている私に向かって独り言のように言った。「まって。」まだそれしか言ってないのに、まるで知られたくないように「姉ちゃん、ついてくるなよ。」なんて言うもんだからあまり不可思議で突っ立ってる間に行ってしまった。荒ぶる息、坂を駆けていった。ああ、昨日と同じように見に行ったんだ。じゃあ、私もあとでいって手を合わせてこよう。おかえり。

そんな話をした翌年、陽平の幼馴染の家に子供が生まれた。
昭子のやけどと同じようなあざがある。
今日も日本は平和です。それでも、夜になると誰かの幽霊が切ない声で笑うよ。 
そしてある日、ふたりの姉弟が空を見上げると、元気に走り回っている二人の子供が見えた。
声はないのに、キャッキャッと走り回っているよ、あの人の面影を残した少年と強い愛情で溢れた少女が。
片方がもう片方に追いつくと、捕まったほうがもう片方をくすぐった。
くすぐられたほうは楽しそうに、くすぐったいよって具合に体をひねる。
やがてふたりは横になって、地上の姉弟と同じ、雲のない真っ青な空を一緒になって見ている。
幽霊かな。うっすら周りが白く光っているのだ。
姉弟は仲睦まじい二人の幽霊を見て、互いに顔を見合わせて、嬉しそうに笑った。
ある親子が橋の下に向かって言った。
「母さんみて、かわいそう。」
「え、浮浪者かしら。」
「きて。もっと近くで見たい。」
「うわ…こんなところで子供二人してどうしたのかな…」
母親は、とりあえず子供の体に触った。
「ひゃあ、冷たい!この子達、死んじゃってるじゃない。」
勇気のある母親だ。橋の影で横たわっている二人の子供の脇の下に手を入れたり、お腹を触ってみたりして、
「もうだめだね…お腹も動いてないし、脇も凍ったように冷たい。かわいそうに…
もっと生きたかったでしょうに。しかもこんなにやせ細って。」
どんな最期だったのか、ふたりは逝く直前どんな会話をしたのかと、そんなことを思いがてら、少し笑ったような遺体の前で手を合わせて「おうち帰ろっか。」と帰っていった。
ある百姓は見た。
仲のいいふたりの子供が、「きゃはは!ここのやつとっていこう!」
「やーい、獲れ獲れーっ。」って畑を荒らす。「おいお前らーっ、またやりやがったな!」「きゃー、たすけてー。」
「逃げろ逃げろー。おっかねー。」「ちょっとまってよー!」
「待てこら!今度こそ捕まえてのろしてやる!クソガキども!」
「うへぇー、捕まるーっ。」なんだか楽しそうだ。笑いながら逃げている。 
「ひゃっひゃっひゃっひゃ!!!ここまで来れねーだろ!!」そして子供たちは逃げ切った。「また逃げられた…畜生。」
しかし、次の日からふたりの子供はばったり来なくなった。
安心した百姓が出かけていると、橋の下で、あの子供が飢え死にしていたのだ。
「お前ら…苦しいなら言えばよかったのに…」なぜかボロボロになっている少年の手元には、子供の字で
「ごはんを探しに行ってくる。」とだけ書いた紙が落ちていた。右手の人差し指は切れていて、真っ赤な文字は血で書いたのだとわかった。
そう、少年は食糧を探しにいろんなところを転ゝとしたけれど、毎度毎度ボコボコにされて、
もう無理だと分かったところでもう一人の少女が待つ橋の下に戻ったが弱り切っていてそのまま力尽きてしまったのだ。
もちろんその間少女は、ひとりさびしい思いをしながら何日も待ち続けて、いつまでたっても帰ってこない少年のことを一途に想いながら孤独に死んでいった。野垂れ死んでいるのではないかと心配に思いながら…
やっとの思いで少年が帰ってきたときには、もう冷たくなっていた。
そして少年もまた、つらかっただろう、さみしかっただろう、と、申し訳ない気持ちで心をいっぱいにして逝った。
でもこれで二人とも、ひとりぽっちじゃないよ。今からあっちに行くから。
百姓はふたりの傍にありったけの米を置いて帰った。
どうせ幽霊だよ。
誰にでも見える、寂しい子供の幽霊。
不潔で、不健康で、貧乏でかわいそうなうざったらしいおチビちゃん。
もーっほんと、人騒がせ。こまっちゃう。

「こういうことがあったんだよー」ふたりは、あの時見たものを佳子に話した。
「そんなのあるわけないじゃない。」佳子は、ふたりの言うことを頭ごなしに否定する。
しかし浩太郎は、そんな否定も押し流して言い返した。「ほんとだよ!だって姉ちゃんも見たもんね!」
「そうそう。この前見せてもらった、お父さんの子供のころの写真そっくりで!」
「せや、一緒にいた女の子も連れて。」
「幽霊なんていないに決まってる。あなたたち、何の影響で急にこんなこと言うようになったの?」
「本当に頭が固いなー。いるかもしれないのに。」
「変なこと言わないで。もう死んだの。死んだらどう頑張っても会えないし、見えるわけもない。考えたらわかるじゃない。頭を冷やしなさい。」大人って、子供のいうこと信じないよね。親は知らない、子供だけの世界だよ。
あーあ、大人はいいとか、親の言うことは絶対だとか、よく言うよ。悪い大人はいつでも。子供の言う事を信じない。子の心親知らずではないのか。
「お母さん、お父さんと仲悪いの?冷たくしてると、かわいそうよ。」
「悲しいから、考えたくないの。かわいそうだけど耐えられない。」
「はっきり言わせろ。お母ちゃん、現実見ろ。
まだ受け入れられないのか。
気にしないようにしなきゃ、生きていけないことだってあるじゃないか。どんなに願ってももう戻ってこない。
元気がないとみんなにも心配かけるよ。」
「別にいいじゃない。あなたには関係ない。私は、受け入れなくてもいい。」
「でもお母さん、人間、本当に死ぬときは、息をしなくなったときじゃない。心臓が止まったときでもない。
…人は死なない。忘れられても死なない。お父さんは死なない。絶対、絶対ありえないの。
人が死んでも、みんなの記憶から消えても、ここに生きて、人生全うして死んでいった事実は変わらない。生きてた証なんて誰にも消せない。だから、私たちにはそれが見えたから…」
「姉ちゃん、落ち着けよ…」「いやよ!まだ伝わってないの!」「もう十分だろ。」「あんた急に方向転換して、裏切るのもいいところにして!」「声がかすれてるよ。もうやめといたほうが…」「うるっさい!なんで私が説教されてんの!意味わからん!」『ぺチンッ』「ばかたれ!何すんねん!おめーの指ちょん切ったろか!あほ!」机をガタンと蹴る音がした。「二人とも、もうやめ…」「これで勘弁せえ!」『ドカッ』「わーーーーーん!!!浩太郎が殴ったー!!もうやー!!」陽子は麵を作るあのぶっとい棒を持ってきた。
 
「何するつもりや!」「先に殴ったほうが悪いんだからね!」陽子は棒を振り上げた。「は!?先に叩いてきたんお前やろ!ふざけんな!」「二人とも暴力はあかん!陽子、危ないから…」止めようとしたが、もうすでに陽子は棒を振り下ろしていた。一番バッター陽子!『ゴチン!』
棒の先は浩太郎の頭のてっぺんに命中した。頭の中に、キーーーーンという耳鳴りのような音が響いた。
打ち所が悪く、気を失ってそのまま後ろ向きにバタッと倒れた。ここでまたしても頭を打った。
「こら、陽子!そんなことしたらだめ!…ちょっと待ってなさい! カランカラン…あ、えっとえっと、○○市の…」
「チーーーン!」と勢いよく電話が切られたとき、陽子はその場で突っ立っていた。
ただ腐った木材の床を見つめて、「ばか。なんで私のせいになるの。どうせすぐ立ち直ってくるくせに。」とかブツブツ文句を言っていた。
しばらくすると救急車の音が聞こえてきた。知らない人が来て、浩太郎を担いでいった。「ちょっと来なさい。」陽子は佳子に連れてこられて、一緒に病院まで行った。
回復して帰ってくるなり、陽子はド叱られた。
「どうしてそんなひどいことできるの!?たったひとりしかいない自分の弟に対して!!
明らかに悪いのは陽子でしょ!殴ってきたのも、あなたが叩いたからなの!考えたらわからない?」
「……めんどくさいなー…」「返事くらいしなさい!」陽子は一瞬ビクッとした。そのせいかこう言ってしまった。「はいはい。」
「あんたねえ!浩太郎を病院送りにしといてなんなのその態度!!」陽子の髪の毛を強く引っ張って怒鳴りつけた。
そして続けざまに、「あんたみたいな子はよその子になって!うちはこんな子育てた覚えない!」
それでも、早く話が終わってほしかった陽子は「なんでお母さんは髪を掴んだりしてもいいの。私には怒るくせに。」と自殺行為と言ってもいいような言葉を漏らした。
佳子は激怒して、「出てって!反省すらできない奴はいらない!
バカ!クズ!ああほんと、人間としての恥!こんな奴の家族イヤ!」と「いや、離して。」と体をくねらせて逃げ出そうとする陽子を押さえつけて外に引っ張り出した。
陽子はもう反抗する気はなく、「ごめんなさい!!!許して!反省してる!」と大泣きしながら謝った。
「反省するのが遅い!一〇〇年道端で座ってなさい!もう家に入れない!」
「いやだ!いやだー!!!」「人の気持ち考えなさい。あんな棒で殴って、死んじゃったらどうするの。これでもあんたにやられた傷跡は一生残るんだからね。」その時だった。
「お母ちゃんもうやめて!もういいよ!許してやりゃあええやんか!」声がしたと思うと、浩太郎が二人を引き離そうと必死になっていた。
「でも、あなた、陽子のせいでどうなってたか…」「やりすぎ!お母ちゃんもさっきの陽子とやってること同じやん!
」「たしかに、やりすぎた。ごめんなさい。」「…いいの?許していいの?痛い思いしたのは浩太郎なのに。」陽子は申し訳なさそうに何度も聞いた。「もういいんだよ、陽子。俺もう痛くない。」「ごめんね、頭殴ってごめんね。」
「気にしてないったらもうおせっかいもやめて…ほら、こんなに触っても全然痛くない。棒で殴られたくらいでなんだっての。」「よかった…」
その夜は、家の中をよく子供が駆けていたのがすっかりなくなった。寂しいような気がした。笑い声と、「お前が昨日残した飯をどうにか分けてよ。」というやせ細った子供の声がぴったり止んだ。
そして数日後、浩太郎が自転車でこけた。
膝小僧を思い切り擦りむいて、横向きに投げ出されたせいで左半身もダメになっていた。
悲痛に呻きながらなんとか自転車を押して帰った。
戸の前。もう限界だぁ…
喉から叫び声を入り交ぜて、呼び声を絞り出した。
戸のヘリに手をかけながら、「お母ちゃん!!いたーい!!」と大声で呼んだ。
不意に、仕事中だということを思い出した。
その場で抱え込んで、なんとなく物干し竿をじろじろ凝視して誰かが帰ってくるのを待った。
頬伝いに涙が流れ、膝から目がチカチカするほど赤い血が、冬場の鼻水みたく、ふくらはぎと脛を蛇行して地面を濡らす。

足元の土が真っ黒になりかけた時、陽子が帰ってきた。
陽子は庭へ入ってきた瞬間、「浩太郎、あんた何やっとんの!?この足何!ぐじゃぐじゃになっとるがね!!」と駆け寄ってきた。
「ケッタで…やってしもた…ああ、ケツ痛い!中入りてえ!」浩太郎は信じられないほど甘ったるい声で陽子に泣きついた。「そっち…? まあ、ちょっとまって!」陽子が荷物を置いてくると、あら不思議。
さっきまで真っ赤に血を出していた傷が、もう湿り気が消えていたのです。
「あれ、よくなってる。なんで?」「わがんね。」「きっと誰かが直してくれたんだ。」「すっげ。」
庭の前には、うっすらと、爆弾の跡が残っていました…
二〇XX年。
あれからもう何十年も経つんだね。
実家暮らしの姉弟は古びた日記帳を見てそう言いながらテレビをつけた。
アナウンサーは陽気な声で、「現在、外國と戰闘状態。日本軍、開戰早々不利な戰況です。政府からの情報に注意し、特殊攻撃などから身を守りましょう。危険区域…えー、○○県、○○県、○○府…」と読み上げた。変わってるなあこの放送。「ああ、父さんを殺したあれがまた来るのかもしれない。」
数日後、若者のいない町でふたりは呟いた。「私たち、逃げ切れないね。」「いいよいいよ。ここを離れるわけにはいかないんだから…」ミサイルはビュンビュン落ちるし、國民保護サイレンなんて何度聞いたことか。ただ何か考えるわけでもなく、あの古い日記帳につらつらと気持ちを書き留めた。
ついにその日はやってきた。ボロボロのテレビをつけると日本國尊厳維持局たるフィルムが放送されていた。
そう、現代版の。あれは作り物だったはずなのに、本当にそうなってしまったのだ。千九百七十三年以降にも使われるなんて、誰が予想しただろう。
ふたりは潔く、「いこう。僕と一緒に…」「ええよ。」 (次生まれる時も、私たちは絶対に家族だから…)
と川へ行き、頭の中へカノンの音楽を繰り返しながら、次つぎ飛び込む子供たちとまぎれて身を投げた。と、さ。
おくすりなんてありゃしないよ。自力でやらなきゃいけないの。
人っ子一人いない、変わった形の建物ばっかりの占領された小さな町で、下駄の音だけが軽やかに響いた!誰かと誰かの心が「またスライド笛吹きたいな。」「こんどまた聞かせてね。」なんて笑いあっている。ああ、ここまで体全体で終わりを感じたことってないや。木の陰から何かがぼやっと光った。
日本終了!外國に支配されなきゃよかったのにね!これも工作員のおかげですね!
お し ま い










meioekaki at 23:07|PermalinkComments(0)
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